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株式取引でのAI活用事例 〜海外編〜

「海外での株式取引での活用事例」に、①米国ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)社、②香港アイデア(Aidyia)社の2社のケースを挙げることにした。

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株式取引がAI(人工知能)によって、完全オートメーション化する時代がやってきそうである。人間を超える汎用型AI(AGI)の登場(シンギュラリティ=技術的特異点)についての論議はともかく、現時点での最も合理的、かつ効率的な手法は、“AI活用による業務の全面自動化”であることが前提になろう。ここではAI活用の株式取引で先陣を切る2社のケースをもとに、現在の投資戦略構築の経緯について追跡してみた。

株式投資でのAI活用

事例① ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)社の活用ケース

600人のトレーダーが2人になった背景は?

投資銀行の規模としては世界でも最大級といわれるゴールドマン・サックス社──。ここ数年、とくに株式取引での先鋭的な自動化の推進で脚光を浴びている。さまざまなアルゴリズムを利用してデータから反復的に“学習”し、そこに潜むパターンを見つけ出す「機械学習」を中核に据えた取引活用で一定の成果を収めつつあるからだ。

同社CFO(最高財務責任者)のM・Chavez氏は、2017年1月開催のシンポジウムで同社について、2000年当時NY本社に在籍していた600人のトレーダーが、2017年時点ではわずか2人しか残っておらず、日々の取引業務は200人のコンピュータエンジニアが運用する自動取引プログラムに置換されていると説明した。業界の未来を示唆するショッキングな発言として喧伝され、広がっていったものである。

今後については、セールスや顧客との関係構築スキルなどに焦点を当てた業務の効率的な自動化に取り組む方針である。また企業の新規株式公開については、詳細にわたる業務のマッピングを進め、ワークの自動化を重点的に推進するという。

注目される銘柄選定の「GSビッグデータ・ストラテジー」発足

とくに注目されるのは、各種ソリューションに米AIベンチャー、Digital Reasoningを採用していることである。Digital Reasoning社は01年発生の同時多発テロ事件の際、オンライン上でやり取りされるコミュニケーション解析を行ってテロリストのネットワーク探索に貢献して以来、米国政府に重用されている実績をもつ。

その認識プラットフォームは、日にトレーダーがやり取りする数百万件に上る電子メールやテキストメッセージをスキャンして行動パターンを解析する能力を保有している。そこで不正行為が特定されると、顧客の規制コンプライアンス担当者に通知し、調査が開始される仕組みとなっており、従来のツールと比べ不正行為の誤判定率を95~99%低減できるということだ。

またゴールドマン・サックスでは昨年12月、銘柄選定のために、AI活用のビッグデータ解析を組み込んだ「GSビッグデータ・ストラテジー」を設定した。同社の計量投資戦略グループは、1989年からクオンツ運用(数量分析をベースにした運用)を立ち上げ、2008年に会計・経済数値を除く大量の情報を含めるビッグデータの運用モデルを導入、一定の経緯と実績を挙げていただけに、このプログラムが注目を浴びている。

評価全スコアの加重平均で総合的な「企業魅力度」を判定

先進国株式については、日々最新のビッグデータや市場・業績データに基づき、独自のMVP(モメンタム/バリュー/収益性)モデルを適用して「投資魅力度」を判定する。たとえば、「モメンタム」基準の1つ“アナリストレポート分析”は、年間120万本以上に及ぶレポートについて、自然言語処理技術を利用して、リサーチ・レポートの文章の変化からアナリストの意図を汲み取り、将来のレーティング変更を推定することも行っている。

企業分析では合計数百に及ぶ評価基準にスコアを付け、全スコアの加重平均によって総合的な魅力度を判定、リターン予測、リスク推定、取引コスト推定によるポートフォリオの最適化も実施している。

事例② 香港アイデア(Aidyia)社の活用ケース

立ち上げは、株式取引の完全自動化という触れ込み

AIの世界的権威、ベン・ゲーツェル(Ben Goertzel)氏がチーフサイエンティストを務める香港アイデア社は、すべての株式取引を、人間の介入なしに、人工知能(AI)による完全自動で行うという触れ込みで、2016年1月に立ち上げたヘッジファンドである。香港に拠点を置くが、同社の自動システムは米国株式の取引を行っている。

ゲーツェルは「もし私たちが全員死んだとしても、取引は続くことになろう」という象徴的な言葉を吐いたことでもAI界で反響を呼んだが、事実アイデア社は巨大なデータ量を瞬時に分析し、その分析を通じてAIが自らの改善も行っていく、本来的な“機械学習”の方向に急ピッチに移行しつつあるといえる。

これまでヘッジファンドは長い間、取引をコンピュータの力を借りてきたのが実情だ。ウォール街には、多くのデータサイエンティストたちがマシンを駆使して、大規模な統計モデルを作成していたものだが、この計算能力をメインに据える在り方からは、少なくとも脱却する方向を模索中である。

めざすは、いかなる変化にも適応できるフレキシビリティ

もちろんアイデア社のAIには、市場価格から出来高、マクロ経済データ、企業会計文書に至るまで、考えつくあらゆるファクター資料が貪欲にかき集められている。数百、数千のマシンにまたがる集積情報は当然、前提になっているのだ。

そこから出てくる確度の高い市場予測をもとにした判断はそこで終わらず、さらに遺伝学から着想を得て進化した計算法や、画像を認識したり話し言葉を識別するディープラーニング技術が、何層にも組み込まれる。めざすのは、自動的に市場の変化を認識し、クオンツモデルができない方法で、いかにその変化に適応するモデルを構築していくかにあるのだ。

株式戦略はAIで自動的に指示される方向に劇的な変化へ

2つの事例、ゴールドマン・サックス社と香港アイデア社のケースを見て指摘できることは、AIによる株式取引活用はますます自動化の一途をたどっている事実である。ゴールドマン・サックス社の600人のトレーダーが一気に2人になったというケースは衝撃的だが、これは表現の違いこそあれ、香港アイデア社のめざす全自動化と同義語に他ならない。

株式戦略もいずれ「この銘柄をこれだけ、この手段で、この方法を使って購入しよう」とのサゼスト、さらに効率性の高い手仕舞いのタイミングを、AIによって自動的に指示される方向に、劇的に変貌していくことになりそうである。その意味で、現在は投機・投資のパラダイム転換の狭間に立っているのではないか、との錯覚すら感じるのである。


<参考>

  1. ウォール街を襲うAIリストラの嵐(Newsweek)
    https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/08/ai-17.php
  2. AIの活用でパフォーマンス向上、進化するゴールドマン・サックスの「ビッグデータ・ストラテジー」(モーニングスター)
    https://www.morningstar.co.jp/msnews/news?rncNo=1822045
  3. 人工知能が人間に「買い」を指示する「AI金融」時代の到来(WIRED.jp)
    https://wired.jp/2016/02/25/ai-hedge-fund/
  4. 『人工知能が金融を支配する日』(桜井豊著)<東洋経済>
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