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AIの活用で融資審査はどう変わるのか(海外事例)

2016年4月に、アメリカの金融情報誌Euromoney(ユーロマネー)が向こう3年間で、AIの導入が予期される分野を公表している。報告書では、回答した金融サービス機関の49%がリスク評価だと答えている。AIの導入が、これまでより緻密で、質の高いリスク評価に結びつくと考えられているようだ。今回は、海外での融資審査におけるAI活用の事例を2つ紹介する。

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金融分野に限らず、あらゆる業種でAIの活用が日々、進んでいる。融資審査へのAI導入は期待されている分野のひとつだ。ビッグデータの解析や、顧客の信用リスク判定などにAIの有効活用が見込まれている。利用者はもちろん、企業にとってもメリットがあると認識が深まってきたからだろう。

2016年4月に、アメリカの金融情報誌Euromoney(ユーロマネー)が向こう3年間で、AIの導入が予期される分野を公表している。調査は世界各国の金融サービス機関が協力した。報告書では、回答した金融サービス機関の49%がリスク評価だと答えている。AIの導入が、これまでより緻密で、質の高いリスク評価に結びつくと考えられているようだ。

今回は、海外での融資審査におけるAI活用の事例を2つ紹介してみる。

ビックデータをAI解析するZestFinance(ゼストファイナンス)

ZestFinance(ゼストファイナンス)社は、グーグルの元CIOであるダグラス・メリルと、クレジットカード大手キャピタル・ワン・ファイナンシャルでサブプライム向けのカード事業責任者を担っていたショーン・バディが共同で2010年に設立された。

つまり、ZestFinanceはグーグル仕込みのAIによる迅速なデータ処理と、キャピタル・ワンで培った個人融資のリスク管理が、うまく融合された新しい金融サービスだ。この斬新な発想によって、これまでの金融業界ではこぼれ落ちていた層の顧客を掴むことに成功した。

ZestFinanceが目をつけたターゲットは「ペイデイローン」を利用している層である。アメリカはクレジット大国だが、一般的な銀行などから借入が難しい人々が多くいる。例えば、未来の経済成長を支えるミレニアル世代。従来の借入審査では過去のクレジット履歴をチェックされるため、若年層には不利な仕組みになっていた。

彼らは短期の小口ローンである消費者金融の「ペイデイローン」を利用するしか方法がない。「ペイデイローン」は便利だが、高金利である。そこでZestFinanceはビッグデータを活用すれば、低金利のローンを提供できるはずだと考えた。

ZestFinanceのシステムは、ウェブ上にある7万あまりのビックデータを独自のAIにより、顧客の返済能力(信用リスク)を瞬時に割り出す。ZestFinanceはファイナンス(融資)という名称がついた会社であるが、顧客への融資は実施していない。顧客のリスクデータを実際に貸付する金融企業へ提供している。

ダグラス・メリルは、ZestFinanceで運用している査定システムは次のような利点があると語っている。

査定分析の質を向上させ、借りられる人を増やす。デフォルト率が半減しただけでなく、承認率が従来の査定方法に比べ倍増した。彼はは下記の様に語っている。

“これによって、銀行のカードローンなどを借りられない人でも、かなりの人が毎月のお金のやりくりをできるようになる”。

                               出典:Tech Crunch Japan

Eコマースの利用を促進するAffirm(アファーム)

サンフランシスコを拠点とするAffirm(アファーム)社は、PayPal社共同創業者であるマックス・レヴチンが2012年に設立した金融系のスタートアップだ。2017年12月、新たな2億ドル(約227億円)の資金調達を発表して話題になった。この調達により、資金の総調達額が4億5000万ドル(約510億円)を超えた。

Affirmは、Eコマースで買い物をした際に利用できる金融サービスのアプリを提供している。Affirmを採用しているショッピングサイトで、クレジットカードを持っていなくても決済に分割払いを選べる。クレジットヒストリーが少なく、リボ払いの審査に通りにくいミレニアル世代などから支持を受けた。

貸付審査はAffirmのサイト上で行われる。利用者が入力するのは氏名、電話番号、生年月日、社会保障番号などのわずかな情報だけだ。その情報から自社独自のAIによって審査をする。顧客の信用度はウェブサイトで買物をするたびにリアルタイムで動いていく。信用情報にタイムラグはない。もちろん、AIのアルゴリズムは非公開だ。

審査を通過すれば、利用者の信用度によって分割払い(3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月)が選択できる。アプリのデザインは若者層を意識したUIになっており、借入の敷居を低くしている。何よりも、普段から慣れ親しんたスマートフォンやタブレット端末で利用できるのは手軽である。

AffirmはEコマースサイトを運営している企業にも有益なサービスだ。クレジットカードで分割払いを利用できなかった層が商品などを購入してくれる。実際、Affirmを導入した業者では、サイト訪問者に対する商品購入者の割合が増加し、全体の売上も上昇しているという。

融資審査へのAI導入が利用者と企業に大きなメリットを与える!

AffirmとZestFinanceの共通点はミレニアル世代を意識した金融サービスであることだ。クレジットヒストリーがない若者には従来の金融システムよりも大きなメリットがある。また、フィンテック企業がウェブでの取引に抵抗感が薄い層に、注目している点も見逃せない。

融資にAIを導入すれば、企業側にも多くのメリットをもたらしてくれる。ビッグデータをAIが処理していくことによって、顧客の情報がより細やかに分析される。審査に費やしていた時間がマンパワーに依存していた従来の方式より大幅に短縮する。時間は企業にとってコストの重要なファクターであり、コスト削減への大きな貢献だ。人の目では見逃していたかもしれない新たな顧客層を獲得するチャンスが回ってくる。

今回は個人向けの融資審査を2例挙げたが、企業を対象とした融資へのAI導入も昨今のニュースを賑わしている。融資審査へのAI導入。おそらく、この波は衰えることがないだろう。今後の動向にも注意を向けたいものである。


<参考>

  1. 米国のフィンテックにおける人工知能の活用(JETRO)
    https://www.ipa.go.jp/files/000059240.pdf
  2. 【ITビジネス最前線】ゼストファイナンス、消費者金融に新風(Sankei Biz)http://www.sankeibiz.jp/business/news/130805/bsj1308050500000-n1.htm
  3. ビッグデータ分析でサラ金の信用査定–承認率倍増でデフォルト率半減のZestFinance (TechCrunch Japan)
    https://jp.techcrunch.com/2012/11/20/20121119zestfinance-debuts-new-data-underwriting-model-to-ensure-lower-consumer-loan-default-rates/
  4. ソーシャルメディアを活用した新たなリテール金融与信管理の可能性 (三菱総研)https://www.mri.co.jp/opinion/column/uploadfiles/20140929report.pdf
  5. 人工知能が次のリーマンショックを防ぐ?銀行融資のリスク評価を瞬時に判定(日経BP)
    http://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/column/14/466140/070300046/
  6. ペイパルマフィアが創業の決済企業「Affirm」が新ユニコーンに(ForbesJapan)
    https://forbesjapan.com/articles/detail/18928
  7. 新しいリスク判断で稼ぐ金融スタートアップたち(KDDI総研)
    https://rp.kddi-research.jp/download/report/RA2016008s
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