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日本でも大成功を収めた超人気アプリTik Tok(ティックトック)のコンテンツ自動選別とは

中国のBytedanceが展開する各種サービスが元気だ。AIを活用し、個人の好みに合わせてパーソナライズされたニュースや動画コンテンツを配信するサービスは、中国国内に留まらず、日本をはじめとする全世界に受け入れられている。

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Bytedanceとは

Bytedanceは中国を拠点に活動している企業である。主な事業としてメディアサービスを行っているが、最も大きいサービスは2012年にリリースした「Toutiao(今日頭条)」である。TopBuzzやBuzzVideoなどの動画コンテンツのアグリゲーションアプリなども手がけ、メディアサービスの幅を拡大しつつある。

ただし、基本的にはWeb上に存在するコンテンツを、AIを利用して選別・掲載しているだけであり、Bytedance自体は自社でコンテンツを開発することはない。ただし、AIにより、いわゆる「バズる」内容を発見し、集めるのを得意としている。

最近では既存メディアの配信するニュースや動画をアグリゲーションするだけでは立ちゆかなくなるだろうという想定の下、Tik TokやMusical.lyなどのUGC(User Generated Content)ショート動画作成・共有プラットフォームの開発と展開に力を入れている。

tiktok_ ティック・トック_アプリ_bytedance

Bytedanceのサービス

ではBytedanceが行うサービスをいくつか紹介する。

まずは何と言っても2012年8月にリリースした「Toutiao(今日頭条)」である。これは日本のスマートニュースよりも3ヶ月早く、世界初のパーソナライズ新聞アプリだと言われている。現在、中国では1億2千万人以上のユーザーがこのアプリを使用している。

このアプリはニュースフィードとYouTubeを合わせたようなものである。基本的にはテキストによるニュースと動画を、ユーザーの特性に合わせて提供している。ユーザーはこのアプリを平均で1日あたり74分利用している(図1)。これはFacebookユーザーの平均利用時間よりも長く、Snapchatの倍以上となる。

ticktok_ティックトック

図1 各アプリの平均利用時間

また2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、AIを活用したToutiaoのボット(AI記者)が450本もの記事を自動作成し、他のメディアよりも早くニュースを報じた。Toutiaoのフィードにも大量にこれらの記事が配信され、数多く読まれたという。

次にTopBuzzとBuzzVideo(旧TopBuzz Video)であるが、これはToutiaoのインターナショナル版という位置付けである。日本でもアプリストアからダウンロードできるため、利用している人も多いだろう。実際、iPhoneとAndroid向けに500万回以上ダウンロードされている。これらはネット上に公開されている記事や動画といったコンテンツをAIによって個人の好みに合うようキュレーションし、配信するという手法を採っている。

だが、Bytedanceは一貫してコンテンツ制作には手を出してこなかった。一方でコンテンツの制作プラットフォーム(UGCプラットフォーム)には手を出し、UGCを支援するような動きを見せている。つまり自分たちでコンテンツを生み出すのではなく、ユーザーが自らコンテンツを制作し、それを配信できるようなしくみを整えた、またはそういうサービスプラットフォームを買収したのだ。それがFlipagramとMusical.lyの買収、そして自社サービスとしてのTik TokやHypstarのリリースである。これらはユーザーが作成した動画コンテンツを共有するしくみであり、写真共有SNSであるInstagramの動画特化版と言っても良い。

さて、Toutiaoはユーザーは自分の好みに合ったコンテンツを自動で表示してくれるサービスである。逆に言えば、読みたくないまたは見たくない内容のコンテンツは表示されない。そこがToutiaoの優れた点である。日本でライバルになりそうな同様のサービスにはスマートニュースがあるが、こちらの場合では自分が読みたい新聞や雑誌などのコンテンツ配信メディアを選択し、自分でカスタマイズをしていく必要がある。定期的に新たなコンテンツ配信メディアが増えていくが、読みたければ自分で追加する作業を行わなければ、自動で表示されるようにはならない。逆にサッカーのワールドカップ・ロシア大会の記事をまとめて配信するタグが自動で追加されたが、読みたくなければ自分でそのタグを非表示に設定しなければならない。

一方、ToutiaoではAIをフル活用し、個人個人の興味に合わせた配信が行われるため、そのような手間をかける必要はない。そこが大きな違いと言える。

そして何と言ってもBytedanceのアプリが受け入れられたのは、スマートフォン・ファーストを貫いたからである。それまでも同じ様なコンテンツアグリゲーションサービスはあったものの、基本的にはPC向けのWebサイトがメインであり、スマートフォンで表示するにはレイアウト上の問題があった。しかしToutiaoをはじめ、Bytedanceのアプリは徹底的にスマートフォン向けにカスタマイズされており、UIの設計も優れている。

これに個人向けにパーソナライズされたコンテンツ、そして広告が配信されたため、スマートフォンというコンテンツ消費に向いた機器が増えるにつれて、一気にユーザーが拡がったのだ。

コンテンツの自動選定はどのように行っているのか

では、これらのサービスにおいて、Bytedanceは一体どのようにAIを活用しているのであろうか。

まず、はじめて利用するユーザーに対しては、当然のことながら個人個人に合わせたコンテンツ配信がされているわけではないということだ。その人物が求めるニュースや動画コンテンツがどういうものであるかをAIに学習させるデータが存在していないからだ。これは世界最大のECサイトであるAmazonに初めてログインした人に対して、購入データが存在しないために、標準的なお薦めはできても、パーソナライズされたレコメンドをしようがないのと同じである。

Bytedanceのサービスは、使い込んでこそ、その価値を発揮する。ユーザーがToutiaoなどのサービスを使えば、どのようなジャンルの記事にアクセスしたのか、何秒くらい閲覧したのか、長く閲覧した記事や動画に出てくる共通キーワードは何か、などがAIによる解析対象となる。具体的にはページにおけるタップやスワイプ、各記事に費やした時間と閲覧履歴、記事に付けたコメント、さらには嫌いなものやお気に入りなどのデータを利用している、とある。

つまり繰り返し長時間閲覧・視聴したジャンルのコンテンツは、そのユーザーが興味を持っていると判断し、同じキーワードを含むコンテンツのトップ100を自動で選別し、優先表示するようになる。もしユーザーが優先表示されたコンテンツをさらに閲覧・視聴した場合、AIはキーワードについての強化学習を行い、ユーザーの嗜好についての確信度を高めていく。

ただしこれは、好みのコンテンツ以外にはアクセスしない傾向を助長するため、時間つぶしには良いが、新しい興味や関心事を発見する手助けにはならない。使い方を的確に判断することが重要となる。Bytedanceのサービスにスキがあるとすればそこであり、ユーザーの好みから、新たに興味を持てるジャンルを見つけられるところまでAIで拡げることができるようになると、さらに発展するだろう。

Bytedanceが目指す未来

Bytedanceは何を目指しているのだろうか。基本的には中国国内に留まらず、「グローバル化」と「動画重視」のアプリ開発を行っている。そしてさらに近年の動きは、公式なメディアが公開している記事や、人気のあるブロガーの記事だけでは先がないと考えたのだろうか、どちらかというとUGCをサポートするプラットフォームに多額の投資をしている。例えばTik Tokはユーザーが15秒のショートムービーを作り、簡単に公開したりシェアできたりするサービスである。日本でも「口パク動画」、いわゆる「リップリンク動画」の投稿サイトとして有名になっている。ジャストシステムが2018年7月に発表したアンケート調査報告によると、特に10代のスマートフォンユーザーだけに着目すると、Tik Tokは71.5%と、同様のサービスと比較すると、知名度で3位に入る。

そしてToutiaoやBuzzVideoなどのアグリゲーションアプリで磨いたAI技術を、UGCプラットフォームでも活用し、利用しているユーザーが好みそうなコンテンツをレコメンドするようになっている。

さらにUGCプラットフォームへの投資は加速しており、今後は「動画重視」の次の展開として「ライブ配信」に取り組むのではないかと考えられている。これもBuzzVideoやTik Tokと同じ様に、好みのコンテンツをAIで解析する方向でサービス展開を考えるであろう。

また、リアルタイムのクイズショーにも進出するのではないかと考えられている。実際に2018年2月にはBuzzVideoに「Beat The Q」というボタンが配置され、着々と布石を打ちつつある。

ただしこれは問題点も含んでいる。あくまでもAIをコンテンツアグリゲーションに利用したサービスであるため、UGCプラットフォームで作成されたコンテンツを重要視すればするほど、コンテンツ内容の真贋を判断するすべがないという問題に直面する。つまり2016年のアメリカ大統領選挙で問題になったフェイクニュースを拡散しやすくなる。また、UGCを増やすということはライトなコンテンツが増えるということになり、フィードの画面がこれらのコンテンツで埋め尽くされるという事になりかねない。今でも「エロとスキャンダルばかり」という批判もあるだけに、これをどの様に回避していくのかが、さらなる成長の鍵になるかもしれない。

まとめ

今回はBytedanceの戦略について紹介した。コンテンツアグリゲーションサービスとして、スマートフォン優先のニュースやブログ配信アプリで始まり、BuzzVideoなどの動画コンテンツアグリゲーションサービスへ。そして次にはUGCプラットフォームを展開し、今後はリアルタイム性の高いコンテンツを提供していくものと考えられる。

その全てのアプリで共通しているのは、AIを利用してユーザーの好みに合うコンテンツをピックアップする技術である。視聴時間やコンテンツの内容・キーワードから好みを分析し、徹底的に好みのコンテンツを提供するというスタイルを貫いている。新たなサービスを展開するにあたり、どのようにAIを活用するのか、その参考にしていただければ幸いである。

<関連記事>
Facebookが開発したfastTextとは? その活用事例を解説


<参考>

  1. Bytedance
    https://www.bytedance.com/ai/
  2. Bytedance(Wikipedia)
    https://en.wikipedia.org/wiki/Bytedance
  3. 中国最大のメディア企業『Bytedance』の超アグレッシブな拡大戦略(Bicycle for the Mind)
    https://bftm.ghost.io/bytedance-strategy/
  4. AIなどあらゆる技術を駆使し全自動でニュースまとめ&作成&配信する「Toutiao」急成長の秘密(Gigazine)
    https://gigazine.net/news/20171016-toutiao/
  5. Musical.ly買収で話題。中国の2兆円ニュースアプリToutiaoを徹底解説(中国メディアビジネス日記)
    http://www.kikibrero.com/entry/2017/11/12/203549
  6. 中国で急成長するニュースアプリ「今日頭条」――アクティブユーザー1億5000万人のアプリとは?(newsHACK)
    https://news.yahoo.co.jp/newshack/media_watch/toutiao.html
  7. TopBuzzとBuzzVideoが日本でブランドを強化(PR TIMES)
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000030435.html
  8. 中国最大のニュースアプリ「Toutiao」運営のBytedance、BitStarと業務提携(Pedia News)
    https://thepedia.co/article/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%9C%80%E5%A4%A7%E3%81%AE%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AA%E3%80%8Ctoutiao%E3%80%8D%E9%81%8B%E5%96%B6%E3%81%AEbytedance%E3%80%81bitstar%E3%81%A8/
  9. Bytedance、『Toutiao』等の1日のビデオ再生数100億件突破 最先端のAI技術で世界中のクリエイターに発信の場を提供(@Press)
    https://www.atpress.ne.jp/news/144709
  10. Bytedance(FAST COMPANY)
    https://www.fastcompany.com/company/bytedance
  11. How to Configure a Campaign with Bytedance Ads(AppsFlyer)
    https://support.appsflyer.com/hc/en-us/articles/115003019403-How-to-Configure-a-Campaign-with-Bytedance-Ads-
  12. Bytedance, owner of China’s top news app, mulling huge IPO(Market Watch)
    https://www.marketwatch.com/story/bytedance-owner-of-chinas-top-news-app-mulling-huge-ipo-2018-07-10
  13. 動画SNS「Tik Tok」、10代の7割以上が認知(ASCII.jp)
    http://ascii.jp/elem/000/001/714/1714693/
  14. 口パク動画で10代から支持を得た動画SNS「Tik Tok」とは何なのかhttp://ascii.jp/elem/000/001/714/1714479/
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