AI(人工知能)の開発や実用で「中国のAI技術が発展してきている」と認識している人は、その認識をあらためなければならないだろう。なぜなら中国のAIはアメリカを追い抜く可能性を秘めているからだ。日本はむしろ、AI分野では中国の後塵を拝している。
つまり中国のAIは「発展してきている」どころのレベルではなく、中国AIは「世界でトップ争いをしている」のである。
AI王国を支える中国の関連企業を5社紹介する。
EC中国王者「アリババ(阿里巴巴集団)」はAI技術でさらなる拡大を狙う
「アリババ(阿里巴巴集団)」といえば、中国EC(電子商取引)の王者である。いわば中国のアマゾンといった状態で、アリババは世界一の購買力を誇る中国人に支えられて急成長した。
さらにアリババの急拡大は中国人の物欲をさらに刺激する。アリババは中国内需の好循環を生み出しているのだ。
その「大金持ち」のアリババのAIへの関与は、規模が違う。同社は2017年に、AIや半導体の研究開発に1,000億元(1兆7,000億円)を投資すると発表した。
このメガトン級の大型投資には、巧みな企業戦略が隠されている。
アリババは将来、自社のユーザー数が20億人に達すると見込んでいる。さらに「アリババ経済圏」に1,000万社を取り込む目標を持つ。
そのような小売り王者の現在のアキレス腱はAIと半導体を外部調達していることだ。アリババが拡大を続ければ続けるほど、高品質のAIと半導体が大量に必要になる。成長を支える土台を外部企業に握られたのでは、成長のボトルネックになってしまう。
そこでアリババは、AIと半導体の自社開発に乗り出したというわけである。
中国の「テンセント(騰訊控股)」もAI囲碁で世界の頂点に立った
グーグル系企業「ディープマインド」がつくったAI「アルファーゴ」が、囲碁の世界トッププロを打ち破ったのは2016年のことだ。この年とこの出来事は、AI史に必ず刻まれるだろう。それくらい歴史的な偉業であった。
しかしそのわずか約2年後の2018年に、中国のネット企業「テンセント(騰訊控股)」が開発した囲碁AI「絶芸」が、囲碁の世界トッププロを倒したことはあまり知られていない。
「二番煎じ」だからだろうか。ところがこちらも歴史的な出来事と評価すべきである。
というのも、グーグルの技術に中国企業が簡単に追いつく時代が到来したことを、テンセントは証明してみせたからだ。
そしてテンセントの偉業は、ひとつの象徴にすぎないのかもしれない。中国政府は2017年に、AI分野で2020年にアメリカに追いつき、2030年にはアメリカを追い越すと言い放ったのである。
残念ながら、現代の中国AI業界の視野に、日本は入っていないようだ。
話をテンセントに戻す。囲碁での勝利は、PRとしてはインパクトがあるが、実社会への応用ではあまりメリットを見いだせない。
テンセントはこのような派手なパフォーマンスを見せる一方で、社会インフラにもAIで勝負をかけている。テンセントは決済サービスにも手を広げていて、同社は、中国政府の「AIナショナルチーム」にも指名された。テンセントは中国を代表する誉れ高き企業というわけだ。
「新アメリカ安全保障センター」というアメリカの安全保障系のシンクタンクは、テンセントの実力について「アメリカは中国のAI戦略を真剣にとらえる必要がある」と警鐘を鳴らす。
つまり、中国を新興国とみなして油断するな、というわけである。安全保障系のシンクタンクがそのように言うということは、単に産業界の競争だけにとどまらず、中国AIはアメリカの安全保障に脅威をもたらしかねないということだ。
そしてこの警鐘は、日本政府と日本企業にも有効だろう。
スマホの雄「シャオミ(小米)」は本当にスマートなスマホを目指す
中国で勢いのあるスマホメーカー「シャオミ(小米)」のAI戦略は、製品を中心に据えている。シャオミは2017年に、ディープラーニング(深層学習)を用いた顔認証技術で、世界1に到達したと宣言した。
製品を中心に据えたAI戦略とは、製品をネットにつなぐIoT技術とAIを組み合わせるイメージだ。シャオミは自社のスマホから大量のデータを取得しようとしている。これがビッグデータとなり、AIに学ばせる「学習の種」になる。
学習の種が多ければ多いほどAIは賢くなるので、そのAIを使った顔認証などの技術はより高度化する。だからシャオミのスマホはますます売れるようになるだろう。
そうなるとシャオミが吸い取るビッグデータはさらに膨らむ。
これが、シャオミが描く「正のスパイラル」による事業拡大戦略である。
シャオミのサービスに登録している会員数はすでに1億5,000万人に達し、写真データは500億点に及ぶという。これだけの「学習の種」があれば、AIは加速度的に進化するだろう。
シャオミの創業者でCEOの雷軍(レイ・ジュン)氏は、現代のスマホはまだ人間がしなければならないことが多いと述べている。さらにAI化すれば「本当にスマート」なスマホができると豪語している。
モバイル決済やカーシェアを支える「Megvii Technology」
中国企業による顔認証技術では、Megvii Technologyも負けてはいない。デバイスのロックをユーザーの顔で解除する技術を持つ。例えばロックがかかったパソコンに顔をかざすだけで使用できるようになる。
またMegvii Technologyの技術は、中国EC(電子商取引)の王者アリババもモバイル決済で使っている。さらに中国のカーシェア大手「滴滴出行(ディディチューシン)」も、ユーザーの身元を確認するときにMegvii Technologyの技術を使っている。
カーシェアとは、1台の自動車は不特定多数の人たちが使いまわすサービスだ。自動車を保有するコストを省くことができる。滴滴出行はソフトバンクと提携し日本進出も果たしている。
ホライズン・ロボティクス(地平線机器人)
中国政府は2030年ごろまでに、自動運転車を中国国内で3,000万台走らせるとしている。中国のベンチャー企業「ホライズン・ロボティクス(地平線机器人)」は、自動車に使われている半導体製造を得意とする。
自動車向け半導体は、米エヌビディアやイスラエルのモービルアイが先行するが、ホライズンはこの2社を猛追している。
というのも、自動運転車向けの半導体市場は2021年に50億ドル(約5,250億円)になるといわれ、これは現在のおよそ2倍である。
つまり後発組のホライズンにも勝機は十分あるというわけだ。
AI技術に加えて半導体でも中国勢が有利になれば、中国の自動運転車メーカーは「トヨタ」になるかもしれない。
まとめ~国策としてのAI企業支援
中国は国策としてAI企業を支援している。中国はいまでも共産党が支配する社会主義国なので、「この業界、この企業を伸ばす」と決めると、国力をそこに集中させることができる。
日本のAIは、アメリカと中国に大きく水をあけられている。日本企業の奮闘と日本政府の支援を期待したいところだが、中国のAI開発の猛スピードに追いつけるのだろうか。
<参考>
- 中国政府、AIチップで「2030年に世界トップ」を目指す戦略を明らかに──動き始めた巨大プロジェクト(WIRED)
https://wired.jp/2017/12/11/china-challenges-nvidias/ - 中国AI大国への国家戦略——2030年に170兆円産業に。軍事面で米脅かす存在にも(BUSINESS INSIDE JAPAN)
https://www.businessinsider.jp/post-109079 - 中国AI大国への国家戦略——2030年に170兆円産業に。軍事面で米脅かす存在にも(BUSINESS INSIDE JAPAN)
https://www.businessinsider.jp/post-109079 - AI大国に躍り出る中国 ―AIエコシステムの形成に向けた動向(富士通総研)
http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/newsletter/2018/no18-008.html - 中国のAI事情-AIの取り組みを現地からレポート#02(CATAALYST)
http://catalyst.red/articles/ai-robot-china-2/ - 米中AI競争の最前線「CES2018」に参加した注目の中国企業(AI Lab)
http://www.laboratory.ai/trend/498 - 中国・滴滴出行、ソフトバンクとタクシー配車で連携(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26725800Z00C18A2X30000/ - 中国で産声上げる自動運転の半導体新興企業-輸入依存から脱却目指す(Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-03-26/P66EL56TTDS101 - 中国ホライズン、インテル・キャピタルから1億ドル調達 自動運転向けAIチップの開発加速(日刊工業新聞)
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00447623
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