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知っておきたいAIを活用した売上予測の成功事例 〜国内編〜

AI(人工知能)を使った業務改革は小売業の現場にも到来している。AIを使って売上予測の精度を向上させて経営の効率化を図った事例を紹介する。

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誤差のない売上予測は、小売店の店主の夢といっても大げさではないだろう。店主が売上予測を100%信じることができれば、在庫を減らすことができ、販促イベントを絶好のタイミングで仕掛けることができるようになる。アルバイトたちを過不足なく配置することができるので、人件費を最小限に抑えつつ来店者の対応を充実させることも可能だ。つまり売上予測の精度を高めれば、コストダウンと売上アップと接客の質向上を同時に達成できるのだ。

しかしベテラン店主の長年の経験と勘をもってしても売上予測が外れることは珍しくない。売上を左右する要因が無数に存在するからである。そこでAI(人工知能)が活躍する。無数の情報のなかから有益な情報だけを集め、整理・分析・統合・推測することが得意なAIは、小売店の商品の将来の売れ行きを見事に予測するだろう。

売上予測_小売

使い捨てカイロの販売予測で「誤差2個」を達成

北部九州でホームセンターを展開している株式会社グッデイは、AIを活用した売上予測システムを導入し、注目を集めている。既に、使い捨てカイロの販売において、売上予測と実際に売れた個数の誤差がわずか2個だった、という成果もあげている。グッデイにAI売上予測システムを提供しているのは、福岡市のITベンチャー株式会社グルーブノーツだ。地方で開発したAIを地方の小売業が活用する「AI版地産地消」というわけだ。

在庫量の適正化や値下げ販売の回避が可能になる

グッデイでは、全店舗の3年分の使い捨てカイロの販売実績と気温などをAIに学習させ1日単位で売れ行きを予測した。グッデイは約6万点の商品を扱っていて、最終的にはすべての商品でAI売上予測をしていくという。グッデイは、売上予測の精度を上げると次の5つのメリットが得られると考えている。
メリット1
在庫量が適正化される
メリット2
入荷後すぐに売れるので商品の劣化が起きない
メリット3
過剰発注がなくなり値下げ販売の回数を減らすことができる
(値下げしないで売ることができる)
メリット4
1回2~3時間かかる発注業務時間を短縮できる
メリット5
従業員の業務が省力化され、その分接客サービスを充実できる

会社の利益増に貢献するだけでなく、発注担当者が難しい業務から解放される点もポイントだ。「働き方改革」にもつながっているわけだ。まさに至せり尽くせりといったところだが、グッデイとグルーブノーツのAI革命はほかにもある。

花の仕入れをAIに任せる

グッデイの主力商品の1つに花がある。同社の2017年の売上高は320億円だったが、花だけで2%の7億円を稼いでいる。ただ花の仕入れは簡単ではない。つぼみのまま仕入れると店頭に長期間置くことができるが、花が咲いていないので客の目に止まらず売上が伸びない。かといって花が開いた状態で仕入れてしまうと店舗で早く枯れてしまうのでロスが大きくなる。これまでは熟練の仕入れ担当者が花卸し店を訪ねて肉眼で確認して買いつけていた。

グッデイとグルーブノーツはここでも協力して、AIによる花の生育判断システムを開発した。グッデイは、花卸し店から花の写真をネットで送信してもらうだけでよく、それをAIに読み取らせれば買いごろの花を選んでくれるのだ。

AIに花の教育をしたのは、熟練の仕入れ担当者だ。仕入れ担当者はまず、30枚の花の写真から仕入れるべき花とそうでない花を選びAIに教える。AIはその学習経験によって、別の花の写真について仕入れるべきかどうか判断する。

ただ最初のころは、AIはまだ仕入れてはいけない花を選んでしまう。そこでAIが間違ったら仕入れ担当者がそれを指摘する。AIはなぜ間違ったかを自己分析して「賢く」なる。これを繰り返すことでAIの「花の生育判断」の精度を高めていったのである。

グッデイでは、花が売れ残りそうになると安売りをして売り切ろうとする。当然利益は減る。「売りごろ」の花だけを店頭に並べることができるとロスが減るだけでなく、値下げ販売の回数を減らすことができ利益アップにつながるのだ。さらにグッデイの仕入れ担当者は花卸し店に行かなくて済むので作業効率も上がる。

グッデイの社長は日本経済新聞社の取材に対し「いままであやふやだった作業がAIで明確になる」と、AI効果を語っている。

なぜ売上予測は難しいのか

なぜ小売業の売上予測は人では完璧に行えないのだろうか。それは、小売業界には「一部の商品の売上予測を的中させても意味がない」というジレンマが存在するからだ。

例えば、あるスーパーマーケットが人の力だけで豆乳の売れ行きを完璧に予測できるようになったとしよう。するとそのスーパーマーケットは、豆乳の売れ行きが落ち込みそうなときに安売りを仕掛けることができるので、豆乳の売れ行きは急伸するだろう。しかし豆乳が大幅に売れたとき牛乳の売上が落ちてしまえば、スーパーマーケット全体ではかえって利益を下げることになりかねない。つまり豆乳と牛乳の「仕入れ値の変動」と「売れ行きの変動」を同時に最適化しないと、豆乳販売だけ完璧な予測をしても意味がないのである。

そしてもちろん、豆乳の販売数量の影響を受ける商品は牛乳だけではない。そこでまずは豆乳の売上の影響を受ける商品を探していく必要が出てくる。商品どうしの売上の関連性がわかったら、商品ごとの特売のスケジュールを立てることになるのだが、50アイテムの商品から毎日3商品を選んで3日間特売するだけでも、組み合わせは16億通りもある。

つまりこれまでのAIを使わない売上予測は、「まぐれで当たっていた」可能性が高い。また、売上予測が外れたときでも、「不確定要素や想定外の事象が起きたため、売上予測が外れても仕方がない」と検証していた可能性が高い。

まぐれと不確定要素と想定外を排除して、ほぼ必ず当たる売上予測システムを構築するには「人知を超える力」であるAIが欠かせないのである。

NECは「なぜ買ったのか」まで探る

NECは、AIを小売業に投入しようとしているIT企業の1つである。NECはAIを使って予測型意思決定最適化技術を開発した。NECがこの技術を使ってあるチェーンストアの特売商品と特売価格を設定し実践したところ、売上高を11%増加させることができた。

この予測型意思決定最適化技術は「客がなぜその商品を買ったのか」を知るツールである。この技術のすごさは、従来のPOS(販売時点情報管理)システムと比較すると際立つだろう。POSシステムでは、年齢、性別、購入商品、買った店、購入した時刻といった顧客情報を集めることはできる。

しかしPOSでは顧客の購入動機はわからない。POSでは「30代の女性が特売のシュークリームを3個買った」という情報は入手できても、「その女性はなぜそのとき特売シュークリームを買ったのか」まではわからない。

AIはこのようにして客の心を読む

NECのAI予測型意思決定最適化技術は、次のようにして「客の心」を読む。例えば特売シュークリームと一緒に特売の鶏のから揚げを買ったら、特売目的の客であることがわかる。別の客が特売シュークリームと値引きされていないアイスクリームを買ったら、その客は特売かどうかに関わらず、甘いものを複数食べたくなって来店したことがわかる。

また別の客が特売シュークリームとニンジンジュースを買ったら、栄養バランスを考えた購買行動を取る客であることがわかる。
AI予測型意思決定最適化技術は、膨大な顧客情報をあらゆる角度から検証することで、「客のイメージ」をつくり上げるのである。
では、AIが客のイメージをつくりあげると、店側にどのようなメリットが生まれるのだろうか。

購入動機が判明すると販売戦略が激変する

客がなぜ特売シュークリームを買うのかがわかると、店としては次のような対策を講じることができる。
対策1
スイーツと総菜の特売品を一緒に並べて売上増を狙う
対策2
特売をしないプレミアムスイーツコーナーを設置すると、スイーツ好きの女性客を取り込むことができる
対策3
ダイエットに効果がある食品とダイエットを阻害する食品を一緒に売る「罪悪感相殺セット」を企画できる

客の志向をしっかり把握できるようになると、このような新しくてユニークで、かつ根拠がある販売戦略を打てるようになる。特に重要なのは「根拠がある」ことだ。目新しさや奇抜さだけを追った販促企画は、注目は集めても売上や利益につながらないことが多い。しかし根拠に基づいた販促企画ならヒットする確率が高まるし、失敗した場合でも検証が容易になり、次につなげることができる。

顧客の「買う理由」が浮き彫りになれば、売上予測の精度が高まるだけでなく、売上をコントロールすることすら可能になる。小売業の販売戦略はAIによって劇的に変わるだろう。

小売業はAI売上予測で付加価値を高めることができる

売上予測の精度が低いと「実際に店頭に商品を並べてみるまでわからない」状態になり、経営者だけでなく従業員も不安になる。そうなると、店内に陳列する商品構成は無難なものになってしまい、店の活気やオリジナリティが失われてしまう。AIを活用して売上予測の精度が高まると「攻めた企画」ができるようになり、元気な売り場づくりにつながるのである。


<参考>

  1. グッデイ AIで商品発注 業務省力化、在庫減少へ(毎日新聞)
    https://mainichi.jp/articles/20170222/k00/00m/020/139000c
  2. 花の状態AIが評価 ホームセンターのグッデイ 廃棄・値引き管理容易(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22415570Y7A011C1LX0000/
  3. 基本情報・沿革(株式会社グッデイ)
    https://gooday.co.jp/about/
  4. 会社概要(株式会社グルーヴノーツ)
    https://www.groovenauts.jp/company/
  5. 人工知能でビジネスに勝つ!~売上・利益があがるAI活用法~(日本経済新聞)
    http://ps.nikkei.co.jp/leaders/report/bigdata160311/index.html?kxlink=ptlmdl-bigdata160311
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