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機械学習モジュール群を組み合わせて、最適なソリューションを提供するPKSHA Technology

AI専門のスタートアップ企業として成長を続けるPKSHA Technologyの、サービスやソリューションの独自性や戦略について紹介する。

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AIの研究者として有名な東京大学の松尾豊特任准教授が技術顧問になっているPKSHA Technology。AI専門のスタートアップ企業として設立後、右肩上がりで売上を伸ばしている、日本国内では有望な企業だ。彼らのサービスやその技術について紹介する。

PKSHA Technology(パークシャテクノロジー)は、2012年にアルゴリズムの研究を行う技術者・研究者によって設立された国内AI企業である。「未来のソフトウェアを形にする」を目標とし、従業員数は30名で、主に自然言語処理、画像認識などを展開している。

2017年9月22日に東証マザーズに上場し、公開価格2400円に対し、上場初値5480円と、約2.3倍の値を付けた。これは現在ホットなAIの領域で、しかも創業から黒字かつ成長を続けているベンチャー企業として、投資家から注目を浴びた結果であると考えられる。

このPKSHA Technologyを設立したのは、AI研究者として有名な東京大学大学院の松尾豊特任准教授の研究室を修了した上野山勝也氏である。また他にも松尾研究室卒業生が加わっている上、松尾氏自身も技術顧問であり、株主として参加している。

PKSHA TechnologyはNTTドコモ、LINE、リクルートホールディングスなどのIT分野の企業を顧客とし、電子商取引サイトでのレコメンデーションや、チャットアプリでも自動対話などのモジュールを提供している。これらのモジュールは随時追加が行われており、これらを組み合わせることで、素早く新たなプロダクトを提供できる体制を整えている。

また、後述する「BEDORE」については100%子会社の株式会社BEDOREを設立し、こちらからの提供を行っている。このように、AIの中でも成長分野については、子会社を設立するなどして、積極的に展開を図っている。

AI(人工知能) アルゴリズム

PKSHA Technologyのサービス詳細

ではここで、PKSHA Technologyのサービスの詳細を紹介してみよう。概要でも紹介したが、PKSHA Technologyは機械学習系のモジュールを提供している。モジュールは次の8つである。

「テキスト理解モジュール(Dialogue_1)」はテキストの内容を理解し、テキストを分類する。これは文書から特定の文書の抽出や、コールセンターのログ分析・可視化などに使える。

「対話モジュール(Dialogue_2)」は自然言語処理技術を応用して、対話・応答の制御を行う。チャットボットや音声アシスタントを組み込んだロボットとの自動対話などに使える。

「画像/映像解析モジュール(Recognizer)」は画像や映像データ内の物体認識を行う。店頭カメラ画像からの自動認識機能などに利用される。

「行動理解モジュール(Logger)」は膨大なユーザー行動データ、アプリログを、利用可能なデータ資源に変換するためのモジュールである。ログ・行動履歴を解析することで、ユーザーの分類・類型化を行う。

「推薦モジュール(Recommender)」は、ECサイトなどで利用されるレコメンデーションに利用される。商品推薦や情報推薦などの情報の出しわけを行う。

「予測モジュール(Predictor)」はビッグデータとしての時系列情報に対して、未来予測を行う。ECサイトでのユーザーの購買予測、金融機関での与信スコアの構築などに利用できる。

「異常検知モジュール(Detector)」は機械の故障検知や不適切コンテンツの検知に利用される。異常値の検出を自動で行い、工場の検査工程の自動化・半自動化に利用される。

最後の「強化学習モジュール(Reinforcer)」は行動履歴からの学習を行う。ユーザーの行動をフィードバックし、精度向上を担っている。

またこれらを組み合わせ、4つのサービスプロダクトを展開している。

まず自然言語系では「BEDORE」というサービスを提供している。チャット対応とFAQ対応を自動化するサービスである。これまで人間が行ってきた接客、コールセンター、FAQ対応を自動化する。または、人間をサポートすることで半自動化を実現する。

画像認識系では「PKSHA Vertical Vision」を提供している。業界やユースケース特化型の、ディープラーニング技術を用いた画像/映像認識エンジンである。他社との違いは、業種やユースケースを特化させることで高い識別精度を実現しているところだ。従って、何でもできる汎用型というわけではない。

それ以外のものとして、3つ目に紹介するのは「CELLOR」という機械学習を用いたCRMソリューションである。大手飲食企業などで成果を挙げている手法と機械学習を組み合わせることで、少ない手間で手早く売上をあげられるとうたっている。

最後に「PREDICO」という未来予測エンジンである。企業が内外に持つ様々なデータを解析する事で、需要を予測し、在庫管理などのオペレーションを自動化することを目指している。

このように、現時点でAIが活用されているほぼ全ての分野で、何らかのソリューションを提供している。

これらはプロダクトとして提供されているが、先にも述べたようにPKSHA Technologyは機械学習系モジュールも提供している。これらのモジュールを複数組み合わせることにより、様々なニーズに応えるアルゴリズムを組み上げられるようになっている。これがAIに関する様々なプロダクトを柔軟に提供できる基盤なのだ。

AI(人工知能) アルゴリズム

PKSHA Technologyのクライアント活用事例、メカニズム等

次に活用事例を見て行こう。日本語の解析と生成は言語依存するため、海外製のソリューションではなかなか上手く行かないことが多い。そこで登場するのがPKSHA Technologyの保有する業界固有表現辞書(日本語)と、汎用的なシステムアーキテクチャーである。これをAPI型とASP型で提供し、より高い精度の自動化と業務サポートを実現している。ここでこれらPKSHA TechnologyのAIサービスを導入した企業を3社紹介する。AI導入の参考になれば幸いだ。

まずはアプリではじめるアパート経営「TATERU Apartment」を提供しているインベスターズクラウドである。自然言語系のエンジンである「BEDORE」を利用し、チャットボット「TATERU Bot AI」を開発。2017年2月28日にサービスを開始した。これは「TATERU Apartment」の利用者向けであるため、誰もが使えるようになっているわけではないが、このチャットボット導入で、利用者は気軽かつ簡単に資産運用の相談ができるようになるとしている。また、この会話内容をフィードバックすることで、ユーザーに適した商品や情報を提供するそうだ。つまり、強化学習モジュールや、推薦モジュールが組み込まれていることがわかる。

2社目はNTTドコモである。2016年9月27日に業務資本提携契約を締結した。両社はAI技術を活用した購買支援システム「ecコンシェル」を共同開発し、2016年6月8日から提供を開始している。このサービスは「Web接客」という考え方で「ネットショップの会員数を増やしたい」「Webサイト内を回遊しているお客様の離脱率を下げたい」など、「だれに」「いつ」「どこで」「なにを」を接客シナリオとして組み立て、サイト内でのコンバージョン率アップなどに活用されている。2016年10月末段階でファッション業界など約250社の法人が契約しているとされていたが、2018年9月現在ではTOWER RECORDやSHOP JAPANなどでも採用され、個人の趣味や嗜好を踏まえ、一人一人に最適な情報を提供している。またNTTドコモのdショッピング、総合ショッピングサイト、化粧品/健康食品オンラインショップ、電子書籍ストアなどでも導入が進んでいる。

SNSの雄であるLINE株式会社もサービスを導入している。「LINE Customer Connect」と自然言語系のプロダクトである「BEDORE」を連携させ、日本語の自動応答サービスとして利用している。LINE上で様々な企業が自動応答サービスを展開していることはよく知られているが、そのうち幾つかは「BEDORE」を利用している可能性がある。ただし、LINEの場合はサービス連携がやりやすい環境を整えているため、自動応答サービスを展開している企業が自社開発のものを利用しているのか、「BEDORE」を利用しているのか、はたまた別の国内AI企業が開発を行ったソリューションを利用しているのかはわからない。

まとめ

PKSHA Technologyはその優れた技術力で、AIを利用した7つの機械学習モジュール群と、それを組み合わせた4つのソリューションを展開している。これらはAPIまたはASP型で提供されており、企業は導入しやすい形態で契約することができる。

また、これらのモジュール群があることで、すでに展開済みの自社のサービスにAIを追加導入することも可能であり、NTTドコモの「ecコンシェル」やLINEは自社サービス組み込みという形で利用している。一方、インベスターズクラウドは新しいサービスとしてシステム開発を行ってもらい、既存顧客に対する投資相談などに乗ることができるようにしている。

基盤となっている、様々な領域の機械学習モジュール群を組み合わせることで、システム開発をやりやすくしているのも、企業がAI導入を行いやすい理由であろう。AI導入を考える企業は、自社のどこにAIを活用すべきかを特定さえすれば、それに合うモジュールを導入するなりすれば良い。

逆に国内AI企業については、顧客がAI導入をしやすいように、大がかりなソリューションだけではなく、こういったモジュール単位での導入がしやすいメニュー構成を作ることも考えるべきだと考える。


<参考>

  1. PKSHA Technology Inc.
    https://pkshatech.com/ja/
  2. 成長可能性に関する説明資料
    http://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS81483/29c617b7/7184/4274/b313/844810cc17fb/140120170922476600.pdf
  3. PKSHA Technologyのすごすぎるビジネスモデル(note)
    https://note.mu/sho_kondo/n/n557fd8713ef1
  4. 初値2.3倍に、トヨタも出資 AI開発パークシャ社長の軌跡(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ22HI4_S7A920C1000000/
  5. トヨタも出資する大学発AIベンチャー、「PKSHA Technology」に注目すべき理由(HARBOR BUSINESS Online)
    https://hbol.jp/153245
  6. 東京大学発ベンチャー パークシャテクノロジー社と共同開発人工知能を活用したチャットボット「TATERU Bot AI」2017年2月28日サービス提供開始
    https://www.tateru.co/press/post/8926
  7. (お知らせ)株式会社PKSHA TechnologyとAI分野での業務資本提携につい
    https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/notice/2016/10/31_01.html
  8. ecコンシェル
    https://ec-concier.zendesk.com/hc/ja
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