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投資分野におけるAIの活用事例 〜海外編〜

2001年のエンロン事件を契機としたロボットアドバイザーは投資心理の弱点をカバーすると同時にコスト削減を可能とし、大手金融機関をはじめ、世界で急速に広まって来ている。

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皆さんは株式や投資信託等金融商品への投資経験はおありだろうか。経験はあるが大きな損失を出してしまいしばらく遠ざかっていると言う方も多いのではないだろうか。

投資行動には人間心理が大きく左右すると言われている。正常性バイアスと呼ばれる認知の歪みが判断力を鈍らせてしまうことが知られている。正常性バイアスとは都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまう特性のことだ。損失を出したくないという気持ちが損失確定を遅らせてしまったり、逆に欲が出てしまい利益確定の意思決定が遅れると言ったことがその一例だ。そのような背景の中、資産運用のソリューションの一つとして、AIを活用したロボットアドバイザー(以下RA)が最近国内でもにわかに注目されてきている。

RAとは、投資スタンス等いくつかの選択肢を選ぶだけで、自動的にその人にあった最適なポートフォリオ(銘柄の組み合わせ)が提供されるものである。

世界最大規模の金融市場である米国におけるRAの歴史は、野村資本市場研究所のレポートによれば、2001年のエンロン事件までさかのぼる。1985年にエネルギー会社として設立された同社は規制緩和の追い風を受け、ブロードバンド事業、天候デリバティブ等事業の多角化により、順調に企業規模を拡大させて来た。ところが、2001年10月に簿外債務の隠蔽等の不正をきっかけとして、2001年末には経営破綻した。

当時多くの投資アドバイザーはエンロンをストロングバイで推奨しており、多くの金融商品のポートフォリオに組み込まれていた。その後破綻し、多くの投資家が資産を大幅に失うことになった。

人の投資心理の弱点をカバーできるロボットアドバイザー

その事件を契機として、人の主観を排除したポートフォリオ作成の必要性が叫ばれるようになった。RAの強みはまさにその部分である。もうひとつの特徴は投資アドバイザーサービスのコストを下げられる点だ。人的リソースを必要としないサービスであるため、対面や電話でのサービス提供が当たり前であった時代と比較して、大幅にコストを抑えることが出来るようになった。これにより、これまでリーチ出来なかったいわゆる中間層と言われる顧客へのアプローチが可能となり、また、従来からの富裕層をターゲットとしたサービスにおいてもリーズナブルなサービス提供が可能となった。

現在、米国のRA業界は約20社の企業が参入している。RAを専業とした企業としてはウエルスフロントやベターメント等が知られている。コンサルタント会社ATカーニーによると、2016年時点での運用資産は2000億ドル程度と現時点では、全米で70兆ドルとも言われる金融資産全体に占める割合は小さいが、資産規模は20年までに2兆2000億ドルへ拡大する見通しだという。

主要な金融機関でも注目されているITテクノロジー

具体的な事例として、米国の大手金融機関であるチャールズ・シュワブがある。同社は2014年時点で約2兆4000億ドルの預かり資産を持つ米国最大級のリテール証券会社で、ロボットアドバイザーサービスに積極的な投資を行ってきた企業のひとつだ。同社のRAサービスであるSchwab Intelligent Advisoryにより、投資アドバイザーサービスフィーを抑え、顧客満足度を高めていくとしている。

バンクオブアメリカメリルリンチもRAビジネスへ注力しはじめた。同社はこれまで投資可能資産額1000万ドル以上を保有する超富裕層をターゲットとしてきたが、2014年にメリルエッジという新チャネルの人員増強を発表し、投資可能資産額が5万から25万ドルの新しい顧客層の獲得へ向けた経営戦略に舵を切った。

世界で急速に広がるロボットアドバイザー

欧州では2012年に施行された金融商品販売制度改革等の金融規制により、ファイナンスアドバイザー業界は高コストによる事業運営を余儀なくされてきた。結果として、対象顧客の選別やプレイヤーの撤退等が起こり、サービスを利用したくても利用できないアドバイス難民が発生する等、低コストでより多くのサービスが可能となるデジタルを活用したサービスが求められていた。そのような背景の中、RAは独立系フィンテック会社だけでなく、欧州の主要な金融機関においても注目されるようになった。

例えばBNPパリバによるデジタルチャネル拡充に向けた動きやUBSにおいても2014年のレポートの中でロボットアドバイザーを含めITテクノロジーの知見を向上させることが不可欠だとしている。

また、中国ではRAが誕生して間もないが、RAビジネスは急速に広まって来ており、招商銀行や中国工商銀行と言った主要な金融機関も注力しはじめている。招商証券の試算によると2020年には6兆元(約102兆円)に達すると言われており、世界的にもそのポテンシャルの大きさが注目されている。

以前は投資は富裕層の特権のような機運もあったが、RAの登場により、少額からでもサービスを利用出来るようになった。IT技術は想像をはるかに超えて進化してきており、少し前までは自分たちが想像もしなかったようなことが実現可能となってきている。

投資はまったくやったことがないという方、仕事が忙しく投資の情報収集をする時間がないという方、投資経験はあるものの、これまでの経験から恐怖心をお持ちの方も、ロボットアドバイザーを使った投資サービスの活用なども増えてくるかもしれない。


<参考>

  1. 米国の資産運用業界で注目されるロボ・アドバイザー (野村資本市場クォータリー 2015 autum)
  2.  米国で拡大する「ロボ・アドバイザー」による個人投資家向け資産運用 (野村資本市場クォータリー 2015 winter)
  3. 欧州におけるオンラインを活用した新たな投資アドバイスの形態 (野村資本市場クォータリー 2016 winter)
  4. 株式投資で成功するために知っておきたい「6つの心理学」(ZuuOnline)
    https://zuuonline.com/archives/105639
  5. エンロン事件について(デジタル用語辞典)
    http://yougo.ascii.jp/caltar/%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%83%AD%E3%83%B3%E4%BA%8B%E4%BB%B6
  6. ロボアドバイザーを導入した、米金融機関のチャールズ・シュワブのCEOの手紙(Stockclip)
    https://www.stockclip.net/notes/1263
  7. アングル:中国の個人投資家を魅了する「ロボ・アドバイザー」(REUTERS)
    https://jp.reuters.com/article/china-investor-robo-advisors-idJPKCN10U0LP
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