AIはさまざまな分野で活用されている。たとえば、エネルギー分野における発送電の効率化に関しても、AIの技術の導入が進んでいる。具体的にみていくと、他分野の技術を応用することで最適なシステムを構築するなど、画期的なAIの利用が行われていることがわかる。今回は、発送電の効率化に関するAIの活用について、海外の事例を紹介する。
事例1「IBM社WatsonによるAIを活用した管理システム」
アメリカのIBM社では、同社が開発した人工知能のWatsonを使用することで、スマートグリッドの監視からビルのエネルギー管理までさまざまなサービスを提供している。
スマートグリッドとは、電力を送る側と受け取る側の双方から制御することで、電力の使用状態を最適化する送電の仕組みのことである。このWatsonは、さまざまな企業と連携することで、多くの新しいサービスを生む出すことに成功している。
たとえば、2016年1月には、アメリカの家電メーカーであるWhirlpool社がIBM社と連携することにより、スマート家電のデータ分析においてWatsonを活用することが発表された。Watsonは、スマート家電から送られてくる膨大な量のデータの解析に利用される。
そうすることにより、それぞれの個人に特化したサービスを提供することができるようになる。具体的には、効率的に節水や節電を行うことが可能だという。さらに、2016年2月には、フィンランドで電力の供給を行っているFingrid社が電力系統の管理システムにWatsonを導入することを発表した。同社は、Watsonとして提供されているサービスの中でも、IoTプラットフォームである「Watson IoT」を活用するとした。
このことにより、従来であれば解析に数日を要していたデータ処理をかなり効率的に行うことが可能になったという。これは、単に作業の効率化になるだけでなく、メンテナンスの頻度を最適化したり、電力系統の信頼性を向上させたりすることにもつながっている。
さらに、同じく2016年2月に、ドイツのビル関連会社Siemens社とIBM社の連携が行われることが発表された。具体的には、Siemens社のビルの管理を行っているプラットフォームNavigatorにWatoson IoTを導入することで、ビルのエネルギー管理や設備の故障予測を担う。これにより、細かいコスト管理も可能だという。
IBM社のWatsonは、このほかにもさまざまな企業によって導入が進められている。それを行うことで、発送電の以外にもさまざまサービスに対する効率的な管理システムを構築することができるようになる。
AIによる管理システムの導入は、サービスを提供する側と受け取る側の双方に大きなメリットをもたらすといえるだろう。
事例2「Verdigris社による機器の電力消費量の特定」
アメリカのVerdigris社は、電力消費の分析にAIを活用している。同社では、企業に対して電力消費の分析を行うサービスの提供を行っている。AIを導入することで、電力を使用している個別の機器を特定し、リアルタイムで分析結果を企業へ提供することができる。
データの収集を行うためには、同社が提供する小型センサーをビルのブレーカーに取り付けるだけでよいというから驚きだ。センサーから受信したデータをもとに解析された内容は、管理画面上でグラフなどによって表される。視覚的に分かりやすくまとめられており、管理者がすぐに確認することができるようになっている。
同社では、このサービスを宿泊施設、医療機関、工場などで活用することを想定している。確かに、こういった施設において、電力を多く使用している機器を簡単に特定できるとなれば、より効率的に稼働する機械を導入することも可能になるだろう。より多くの電力を消費する機器を常に稼働させているような業態においては、非常に大きな効果をもたらすはずだ。同社のサービスはすでに海外の企業で導入が進んでいるという。
事例3「SmartCloud社によるAI技術の応用」
電力系統の信頼性を向上させることを目的とした、北アメリカの機関North American Electric Reliability Corporation(NERC)は、アメリカのIT企業SmartCloud社の人工知能システムを導入している。SmartCloud社が提供しているのは、人工知能を用いて産業システムの監視を行う「CRex」というプラットフォームである。
CRexでは、人工知能を活用することにより膨大なデータを瞬時に分析することが可能で、たとえば産業システムに異常が発生した場合でもリアルタイムに異常を検知することができる。また、不足したり、エラーを起こしたりしているデータについては、自動的に補正を行うことも可能となっている。CRexは、もともとは産業システム向けに開発されたシステムであるが、さまざまな分野への応用が可能なため、NERCにもそのシステムが導入されるに至った。
CRexは、産業システムのほか電力インフラ、水道インフラ、製造システムなど多岐に渡る分野へ活用することができ、デマンドレスポンスや産業機器の管理にも利用することが可能である。デマンドレスポンスとは、一言でいえば、電気料金などの変化があった場合、それに合わせて自動的に電力の消費パターンを変化させることができる画期的な仕組みのことである。
SmartCloud社はNERCへ、リアルタイム管理システムとしてSAFNR を提供したのち、2015年8月に同システムのアップグレードを行った。人工知能を活用することで、データに不備が生じた場合に瞬時にそれを修正することが可能となった。これは電力系統に関するデータの精度を高め、高い監視揚力を発揮することができるということを示している。他の分野に特化したAI技術を応用することで、より便利なシステムを構築できる。このことは、今後よりさまざまなAI技術を発展させるための重大なヒントともいえるだろう。
電力の需給に関してもAI技術は高い効果を発揮しつつある
AIの技術は、電力の需給において重要な役割を担うようになっている。発送電の効率化のために、今後より多くの企業がAI技術を取り入れるようになれば、この役割は必要不可欠なものとなるだろう。
日本国内においても、こういった動きは進みつつある。さらなる電力需給に関するAI技術の発展に期待したい。
<参考>
- 米国における電力インフラとITをめぐる動向(JETRO/IPA New York)
https://www.ipa.go.jp/files/000053295.pdf - スマートグリッド(環境ビジネス)
https://www.kankyo-business.jp/dictionary/000181.php - デマンドレスポンスとは:その仕組みとビジネスチャンス(新電力ネット)
https://pps-net.org/column/9707
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