賢いAI(人工知能)を使えば、小売店の店づくりが画期的に改善されることは想像に難くない。しかしさすがのAIでも、一気に無人店舗をつくったり完全自動化にしたりできるわけではない。では店舗はどこから変わり始めるかというと、まずは接客とレジ(支払い)である。
続きを読む客が好みそうな花をおすすめするAIタブレット
株式会社SPJが開発したAI接客システムは、まずは生花店に設置された。このAIの業務を一言でいうと、客の好みそうな花をすすめすることである。
このシステムについて解説する前に、生花店のベテラン店員がどのように客に花をすすめるのかみてみよう。人間の接客をみておくことで、AI接客の可能性がみえてくるだろう。
人間の店員は花をこうすすめる
人間が接客する生花店では、客がやってくると店員は軽く「いらっしゃいませ」と声をかけるだけですぐには近寄らない。接触を嫌がる客であれば店員が近付いただけで店を出ていってしまう可能性があるし、また店員としても客が店のなかのどの花に注目するか観察したいからだ。客が店内を一巡したところで、店員は「どのようなお花をお探しですか」と2回目のアプローチをかけるのだが、このとき店員にはすでに次のような情報が頭のなかにインプットされている。( )は情報源である。
・前にも来店している客か初来店か(店員の記憶から)
・性別(見た目から)
・大体の年齢層(顔のしわや服装から)
・大体の年収(服装やバッグのブランドから)
・大体の予算(大体の年収から)
・雰囲気(立ち居振る舞いから)
・花の好み(店内を見回したときの様子から)
・購入目的は自宅用かプレゼント用か(雰囲気から)
店員の推測がここまでできあがっていると接客トークはそれほど難しくない。店員は客に質問を重ねて推測の正誤を確認し、客が好みそうな花をいくつか挙げてみる。店員が2~3の花を見せただけで客の好みに合致すれば、顧客満足度は高まり購入の可能性は高まる。店員がいくら花の名前を挙げても客の好みに合わないと、客は帰っていってしまう。だから「花当て」は店員の腕のみせどころといえる。客の好みの花が判明したら店員は花束の構成を客に説明する。予算内に収まるシンプルタイプの花束と、カスミソウを入れたりして予算を少し上回る豪華タイプの花束の2つを提示する。このとき、後者をやや強めに推すと売上増につながる。
さて、以上がベテラン店員の接客例であるが、SPJのAI接客システムがこれをどれくらい再現できているかみてみよう。
「AI店員」の接客術とは
生花店に来店した客はまず、AI接客システムが搭載されたタブレットに「こんにちは」と声をかける。するとタブレット画面のなかの店員のイラストが動き「いらっしゃいませ、かわいいブーケをつくってみませんか」と音声で答える。
客が「プレゼント用の花を探しているんだけど」と尋ねると、AIタブレットは「お贈りする相手は男性ですか、女性ですか」と聞き返してくる。何気ない会話だが、この自然なやりとりはAIのたまものである。
その後AIタブレットは花をもらう人の年齢を尋ねる。客がそれに回答すると、AIタブレットの画面に3種類の花の画像が現れ、客に「このなかからお好みの花をお選びください」と依頼する。客が花を選択すると、AIタブレットは次に「受け取りは本日ですか、予約ですか」と尋ねる。客が「本日です」と答えると、プリンターから花の内容を書いた紙が出てくる。客がその紙を店員に渡すと、店員が花束をつくり、完了する。
この説明だけでは、客が花リストのなかから自分の好みのものを選ぶのと、何が違うのか気づきにくいかもしれない。このAIタブレットが優れているのは、たくさんの花のなかから3種類の花に絞り込んだところだ。「20種類の花の画像のなかから好みの花を選ばせる」より「20種類の花のなかからAIで3種類に絞り、そのなかから選ばせる」ほうが、客に親切である。
AI接客システムが3種類の花を選ぶ過程はこうだ。AIタブレットにはカメラが内蔵されていて客を撮影して性別や大体の年齢層を推測する。その基本情報に質問で得た回答を加えて、顧客情報をつくりあげる。そして過去の顧客情報から、いま獲得した顧客情報に似たものを探し、そのとき売れた花を目の前の客に推薦するのである。AIのこの「過去の顧客情報から、いま獲得した顧客情報に似たものを探す」行動は、人間の店員が知識と経験と記憶から客が好みそうな花を推測するのと同じである。
広く浅い会話術を捨て営業トークのみを磨いた
このAI接客システムを開発したSPJが力を入れたのは、会話力である。通常のAI会話機能の開発では、雑談力を鍛えようとする。話者が天候の話をしても、趣味の話をしても、昨晩見たドラマの話をしてもAIが適切な答えを返せるようにする。しかし雑談に対応できるAI会話機能をつくろうとすると、意図解釈能力が広く浅くなってしまい、話者が話題を深掘りしていくとAIはすぐについてこられなくなってしまう。
しかし花を売るための会話であれば、天候やドラマの話題に対応できなくてもよい。そこでSPJは花販売の接客で使われている単語や会話内容を分析し、優先順位が高いものからAIに学ばせたのである。そのため、花販売用のAI接客システムはコンビニでは接客できない。
SPJによるとこのAI接客システムには高精度対話エンジンと意図判定エンジンを搭載されている。実際に生花店がこのAI接客システムを導入すると、AIは「自分の接客」経験からも学ぶようになる。使い込むうちにどんどん賢くなり、客に推薦する3種類の花の「当確率」が上がるというわけである。
店長の悩みの種「支払時の混雑」を解消するAIレジ
コンビニやスーパーなどの中型店舗以上の店長は、常に混雑時のレジの流れを気にしていることだろう。客はレジの行列が嫌いだ。支払いまでの待ち時間が長引くほど、客のその店への印象は悪化していく。
レジの混雑を解消するにはレジスターをたくさん置けばいいのだが、それには
・スペースを取る
・ハードの購入に費用がかかる
・レジ打ちパートの人件費がかさむ
という大きなロスが生じる。
最近はレジ打ちの店員がつかなくてよいセルフレジも登場しているが、これは客に作業を押しつけているだけなので、顧客満足度を向上させることは難しい。
ここで紹介するサインポスト株式会社が開発した「ワンダーレジ」もセルフレジの一種だが、AIをつかって操作を簡素化させることで、客への負担を大幅に減らした。
ICチップ型レジの欠点を解消した
ワンダーレジは見た目がシンプルだ。一抱えほどの「箱」があるだけである。箱のなかに買いたい商品を入れると瞬時に値段を計算し、客に金額を伝える。箱のなかに複数の商品を入れても一括して計算する。客は電子マネーを「箱」にかざせばそれで支払いが完了する。
ワンダーレジのメリットは次の2点である。
・客が1商品ごとバーコードをレジ機に読み込ませなくてよい
・複数商品を一括して計算してくれる
ワンダーレジはAIを使う方式を採用しているが、これと同じ利便性はICチップタイプのレジでも可能だ。しかしICチップ型レジだと、店員がすべての商品にICチップを埋め込まなければならない。しかもICチップ型レジは、コストが高く管理が煩雑になるという欠点がある。
ワンダーレジの仕組み
ワンダーレジが複数の商品を瞬時に一括で計算できるのは、「箱」が商品の画像情報を解析しているからだ。ワンダーレジは商品のパッケージに書かれてあるバーコードを読み取っているのではなく、商品の大きさやパッケージデザインなどを読み取っているのだ。客が商品をワンダーレジのなかにランダムにおいてもきちんとその商品を認識することができる。この認識はAIが担っている。
またワンダーレジは客を撮影していて、やはりAIで性別と大体の年齢を推測する。店はこうした購買情報を蓄積してビッグデータをつくることもできる。
ワンダーレジを店内にどう配置するか
ワンダーレジを開発したサインポストでは、店内のレジを一気に置き換えるのではなく、例えば「有人レジ3台」を「有人レジ1台+ワンダーレジ4台」にするといった提案をしている。レジは「お金」を扱う場所なので、レジ周辺には店員の監視があったほうがよいからである。また、ワンダーレジのような最新機器を苦手にする客もいるので、有人レジは残しておいたほうがよい。
小売業と客のWin=Win
接客とレジ(支払い)のAI化は、間違いなく客の利便性を向上させていくだろう。無人コンビニが登場すれば人件費も削減できるので、小売業と客のWin=Win関係を築くことができる。POSシステムが小売業のマーケティングを変え、バーコードシステムが支払業務を簡素化したように、AIが店舗をがらりを変える日も近いだろう。
<参考>
- レジ混雑の予測から売上げを高める値下げ案、お客の視線把握まで 第3回「小売業界向けのAI活用はここまで進んでいる!」(小業界ONLINE)
http://shogyokai.jp/articles/-/499 - 【動画あり】AI(人工知能)店員が小売業・流通業の接客を可能に!(SPJ)
https://spjai.com/ann-news/ - AI(人工知能)搭載レジの認識スピードに驚嘆(DIAMOND online)
http://diamond.jp/articles/-/120922 - Wonder Register 世界初 A.I.搭載レジスター(サインポスト)
https://www.signpost1.com/wonder/
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