今注目の人口知能(AI)を開発・提供している日本のスタートアップ企業5社を紹介する。異業種から参入して短期間で業界を引っ張るまでに成長した企業や、次世代のAI技術に強みを持つ企業など、ユニークな会社を紹介していく。
また、業務効率化や自動化に寄与する各社のAIテクノロジーや適用事例、それぞれの企業が目指す将来も含めてレポートしている。これらを自社の業務改善の参考にしたり、現在の日本のAI産業を知る手がかりとして欲しい。
短期間で業界を主導する立場にまで成長したGrid
Gridはもともと2009年創業のエネルギー事業会社だが、自社の発電量予測システムを発展させる形でAIを開発、2016年に機械学習のフレームワーク「ReNom(リノーム)」を発表した。そこから同社はAIベンチャーとして世間的に認知されるようになり、最近は日本のAIサービス業界の中心プレイヤーとして存在感を増している。
2017年4月には大手商社3社との提携や、総合ITベンダーの富士通との協業が決定。インフラ事業やAI分野に強い興味を持つ大手商社3社が、インフラ分野との親和性の高いReNomの活用を決定。富士通とは、同社開発のAI、通称「Zinrai」とReNomを組み合わせたAIサービスの共同開発に合意している。
さらに、Gridは12月に著名なSIer 3社とともに、『AIを社会に役立て、ビジネスや研究活動を活性化・推進すること』を目的としたコンソーシアム(共同事業体)を創設。初期メンバーとして大手商社などが参画しており、今後はAIやITサービスのベンダーやユーザー企業、大学や研究機関の参加を多数受け付けたいとの意向を示している。
オープンなAIシステムの創出で急成長するGAUSS
2017年5月に創業したばかりのAIスタートアップのGAUSS。競馬予測サービスの「SIVA」やアパレルのEコマース用画像認識&検索システムが主力事業だ。
創業者で社長の宇都宮氏は、IT業界では珍しくない異業種からの転職組。そこから大手SIerで実績を残したのちGAUSSを起業。メンバーには日本トップレベルの技術者が揃っているという。競馬予測サービスをリリースした理由は、これまでの勝敗データが豊富で結果が万人に公開されていること、勝敗を予測するというAIに適したテーマだったからだという。宇都宮氏はAIはブラックボックスでなく、もっと自由なものだとの考えを持つ。将来的には、現状ブラックボックス化して扱いにくいAIを、普通のシステム開発のようなオープンなものにしていきたいとのこと。また、その過程で最短での株式上場も果たしたいという、スタートアップらしい野心的な計画も持ったベンチャー企業だ。
データサイエンス後進国の日本のホープとなるか? 原田社長率いるグラフ社
グラフ社は2015年10月設立のAIスタートアップ企業で、事業内容はデータ分析やAIを活用したビッグデータ事業だ。
各業界のトップ企業でデータベース管理とその活用で実績を積み、2016年末にはAI開発ベンチャーとしてのシードラウンド(事業化の研究段階)で1億円の第三者割当増資を実現。増資で得た資金はデータ分析官の採用による人員拡充や、AIデータ事業のエンタープライズ向けのサービス標準化に充てたいとの意向が報道された。
グラフ社を創業した原田社長はデータサイエンティストの第一人者。データサイエンスの業界団体の代表理事も務め、国内のビッグデータベンチャーとも広いネットワークを持つ。あるインタビューでは、日本のデータサイエンス産業のレベルは海外に大きく後れをとっているが、海外企業にとっては参入障壁の高い日本独自のシステム(日本語や商流など)では商機があると答えている。AI活用によるデータベース収益化の実績を豊富に持つグラフは、設立2年で中国進出も果たす。まずは現地の日系企業中心にサービスを提供し、事業基盤を固める方針だという。
将来有望な行動認識のAIで世界一を目指すアジラ
アジラは2015年設立の画像認識のAIに特化したスタートアップ企業だ。そして、ディープラーニングの行動認識のAIで世界一を目指し、日本の社会的課題を解決したいという理念を持っている。
画像認識といえば、車の自動運転に必須の技術として有名だが、行動認識はさらに進んだ技術で、人物や車など動くものの実体はもちろん、どういった状況にあるのかまでAIが判断する。例えば、防犯カメラ等に映る現場の状況が平時の安全な状態なのか、事故や犯罪など危機的な状況にあるのかなどをAIが判断する。ほかにも、介護分野向けの高齢者に特化した行動認識技術や、防犯やマーケティング等に応用可能な走行車種の認識技術も開発中だ。
現在提供されている画像認識サービスには、事務効率化のための手書き数字認識(テキストデータ化するOCRツール)や、Web事業者用の投稿データのエロ画像認識(自動検閲ツール)がある。
一般的に行動認識のAIは未だ研究段階にあり、実用化の事例は見当たらない。アジラの今後に期待したい。
自然言語処理に強い、シリアルアントレプレナー設立のシナモン
シナモンは2016年にシリアルアントレプレナーの平野氏が立ち上げたAIスタートアップ。
同社が提供する代表的なAIサービスは、非定型の文字認識の「Flax Scanner(フラックス・スキャナー)」。ほかにも、自然言語による会話のやりとりが可能なチャットボットの「Scuro Bot」などを提供している。定型フォーマットの文字読み取りや、決められた定型回答を行うボットツールの事例はあるものの、人のような自然な言語処理に関してはシナモンが抜きんでている。
AIによるOCR・入力処理ツールのFlax Scannerは、ビジネス文書に書かれた情報を理解して整理し、管理システムやデータベースに自動入力を行うものだ。各種の形式に対応し、PDF、Wordファイルといった文書データはもちろん、手書きや印字された紙の文書まで読み取る。手書き文字の読み取り精度は95~98%で、金融や保険業界で導入されているという。
シナモンは2018年にも増資を受けるなど、さらなる成長を志向する。同社は『今後も「ホワイトカラーの業務効率化」をテーマにAIプラットフォームとしての基盤を築いていきたい』と表明している。
AIサービス活用に向けて
日本のAIスタートアップ企業5社を、各社が持つAI技術の適用事例とそれぞれの企業が持つ将来的な展望とともに紹介した。特に、成長著しいAI業界で大企業を巻き込んで成長していくGrid社には今後も目が離せないだろう。
今回紹介した5社はそれぞれ独自のAIサービスを提供しており、実績のあるAIツールもいくつかあった。しかし、まだ研究段階にあるAI技術も数多い。行動認識やデータ分析についてはこれからを期待したい。
<参考>
- 人工知能のコア技術を持つベンチャーはなぜ富士通とタッグを組んだのか (ASCII)
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/396/396236/ - 大手商社が続々とGRIDの機械・深層学習フレームワーク”ReNom”と提携や出資 (マイナビ)
https://news.mynavi.jp/article/20170410-a281/ - 「AIの産業応用に本気」、グリッドや富士通ら日本連合設立 (日経 TECH)http://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/feature/15/122200045/121300326/
- IBM ソリューション ブログ『原田 博植 氏 インタビュー Part1』(IBM)
https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/harada-analytics-01/ - 上海に現地法人を設立――AIベンチャーのグラフ (週間BCN)
https://www.weeklybcn.com/journal/news/detail/20171213_159895.html - eiicon 株式会社アジラ紹介ページ (eiicon)
https://eiicon.net/companies/43
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