2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、多数の外国人が日本にやってくる。観光庁の推計では、同年の訪日外国人観光客の推計は4,000万人とされる。しかしその中に「招かれざる客」が紛れ込むことはごめん被りたい。
そこで官民挙げて取り組んでいるのが、監視カメラの機能の拡充だ。慢性的な人手不足に陥っている日本の労働市場で、監視員や警備員を増やすことは簡単ではない。そこで「機械の目」に活躍してもらおうというわけだ。
日立、NEC、富士通のIT大手3社が、相次いで最新型の監視カメラを発表した。
キーワードはAI(人工知能)だ。国産監視カメラの実力やいかに。
AI監視カメラの基礎知識
3社の最新技術を紹介する前に、AI監視カメラと普通の監視カメラでは何が違うのかについて概観しておく。
通常の監視カメラといっても、現代版の監視カメラはその場の様子を動画で録画するだけではない。人と犬を見分けるだけでなく、性別や年齢も推定する。顔認証も可能なので、国際指名手配犯が空港のゲートを通過しようとしているときに、警備員にワーニング(警告)することができる。
これだけでも十分「すごい」機能であるが、通常の監視カメラでは限界もある。まず、実際の犯罪者の数は、指名手配犯の数より圧倒的に多い。例えばコンビニの万引き犯の顔の画像データは、警察当局が保有できるものではない。つまり、非AI監視カメラに犯人の顔を覚えさせても大半の犯罪についてワーニングできない。
また、例えば「商品棚から商品を手に取って、買い物かごに入れない」行動を万引き犯の特徴として非AI監視カメラに覚え込ませたとする。確かにこの設定であれば、非AI監視カメラでも万引き犯をみつけることができる。しかし通常の客が商品を買うかどうか迷って何度も商品を取ったり商品棚に戻したりしている場合も、万引き犯と認識してしまうだろう。
ところがAIのディープラーニング(深層学習)機能を使えば、万引き犯は店内に入った段階で挙動不審になっていることなどを学習させることができる。商品選びに迷っている人と区別できるようになるわけだ。
日立のAI監視カメラは「群衆の中の物を拾う人」を見分ける
日立製作所が2018年度中の実用化を目指しているAI監視カメラは「物を拾う」行動も認識する優れものだ。そのほか「しゃがむ」「走る」も認識する。
日立のAI監視カメラは、性別や年齢のほかに、髪形や所持品なども識別する。そのチェック項目数は100以上にのぼる。こうした特徴を把握したうえで、ターゲットとなる人物の挙動不審を点数化していくわけだ。
日立はこれを空港や駅など、何千何万という人が集まる場所に設置することを想定している。つまりこのAI監視カメラは、群衆の1人ひとり対し瞬時に100カ所のチェックを行うわけである。コンピューターの処理能力をどのように高めたのであろうか。
従来のAIでは、監視カメラがとらえた1人の人物の複数の特徴を、特徴ごとに別々に判定していた。新型AI監視カメラは、1人の複数の特徴を同時に判定できるようにしたのである。
例えば、群衆の人々の「性別、髪の毛の色、服装」の3つの特徴を判定するとしよう。新型AI監視カメラは、先に性別と髪と服装に共通する計算を同時に済ませてから、その後で性別の特徴、髪の毛の色の特徴、服装の特徴を計算するのである。
この方法により、計算量を従来の40分の1にまで減らすことに成功した。
NECのAIソフトは100万人の中の1人を10秒でみつける
NECは2,980万円(税別)で、画像データから人物を特定するAIソフトウェア「ネオフェースイメージデータマイニング」を販売している。
防犯カメラが録画した動画をこのAIソフトに通すと、
・ある時間になるとある場所に必ず現れる人
・犯罪者が行いがちな動作をしている人
を見分けることができる。
もちろん「顔検索」すれれば、防犯カメラ動画の中から対象人物を抜き出すことも可能だ。100万人の顔の画像データから対象人物を特定する時間は、10秒である。
顔だけでなく特定の行動を検索することもできるこの技術に、NECは「時空間データ横断プロファイリング」と名付けた。
富士通のAIはリアルタイム監視が可能
富士通のAI監視カメラは「街中の今」を監視する。リアルタイムが売りというわけだ。
2016年に販売を開始した「シティワイドサーベイランス」は、AIの認識技術とスーパーコンピューターの分散・高速画像処理技術を組み合わせたもの。
「シティワイド」という通り、例えば東京の人と車が大量に行き交う大型交差点の監視も正確に行う。
監視カメラがとらえると同時に、画像の中の人の服のタイプ、車の車種、車のナンバーを識別する。人の認識スピードでは、撮影と同時に識別しているとしかみえない。つまり富士通のAI監視カメラを使えば、警備員が警備しているように「いま起きた犯罪」を「いま」とらえることができるということだ。
まとめ~有望なビジネス
監視カメラ市場は今後も拡大するだろう。「みる」分野では、キヤノンやニコン、ソニーなどのカメラメーカーがある日本は強みを発揮できる。しかし、みたモノを「判断」するためにはAI技術が欠かせず、この分野では必ずしも日本メーカーはトップではない。
監視カメラは日本のみならず世界中で重要なインフラになりつつあるので、AI監視カメラ市場も拡大することが期待される。
<関連記事>
あなたはもうAIに監視されている
<参考>
- 訪日外国人旅行者の受入環境整備(観光庁)
http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/ukeire.html - 監視カメラでテロ防げ、不審者追跡や1億画素で検出 (日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO22175340S7A011C1X1E000/ - AIで犯罪ストップ、カメラの映像を解析(日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO25602390S8A110C1MM0000/ - 日立がカメラ映像の人物を深層学習で特定する技術、「物を拾う」の識別も (日経TECH)
http://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/news/17/032700948/ - AI×画像認識技術で、リアルタイムに街中監視を実現!(Fujitsu Journal)
http://journal.jp.fujitsu.com/2016/11/08/01/
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