AI(人工知能)は賢く忠実で、間違うことがなく、疲れることもない。AIは法律や会計ルールや、そしてあの複雑な税務すら簡単に丸暗記する。
したがって、もしこのままAIが進化して、税務業務に特化したAIコンピュータが生まれたら、税理士は要らなくなってしまうかもしれない。
現に、小国ながらIT超先進国として知られる北欧、エストニアでは、税務の合理化で「税理士が消えた」といわれている。
一方で、どれだけAIが進化しようと、日本から税理士がいなくなることはない、とする意見もある。
日本の税務は複雑極まりなく「解釈」次第で合法となったり脱税になったりする。したがって税金を支払う事業者と、税金を徴収する税務署は対立することがあり、間に立つ税理士は存在意義が高まることはあっても、不要になることはない。
どちらが正しいのか。
結論からいうと、どちらも正しい。
AIができる仕事しかしていない税理士は淘汰されるだろうし、AIを使って新しい税務ビジネスを展開できる税理士はますます繁盛するだろう。
税理士の仕事を洗い出してみよう
生き残る税理士と大きな波に飲み込まれる税理士の差は、AIが代替できない仕事を持っているかどうか、または、AIができる仕事しかしていないかどうか、による。
そこでまずは、税理士の仕事を洗い出してみよう。その後、それらのAI代替可能性を探っていく。
1:税金の相談ができるパートナー
税理士は、経営者や企業の顧問になり、税金に関する相談を受ける。最も重要な相談は節税だ。合法的な節税の仕組みは複雑かつ多様で、「素人」判断では税金を不要に多く支払うことになってしまう。
また節税の仕組みは多層的になっていて、ある節税方法を採用すると、より節税効果が高い別の方法を使えなくなってしまうこともある。
税理士は経営者や企業に、最適の節税方法を助言できる。
2:税務代理
税理士は、経営者や企業に代わって、確定申告、青色申告、承認申請を行う。これらは事務作業ではあるがとても手間がかかる。そこで一部の企業は、これらの業務の正確を期すために社員にやらせるのではなく、税理士事務所に外注する。
また税務署は事業者に対し不定期に税務調査を行う。税務調査を受ける多くの経営者や企業は緊張を強いられるが、そばに税理士がいれば安心だ。
税理士による税務調査の立ち会いは、とても喜ばれるサービスだ。
また税務調査によって間違いを指摘されたもののその内容に納得がいかない場合、経営者は税理士の力を借りて税務署に対して不服の申立てをすることができる。
3:e-Taxの代理
e-Taxとは、税務署への各種申告をインターネット経由で行う仕組みである。
税理士は事業者に代わってe-Taxの手続きをしてくれる。
4:会計業務
企業は税理士事務所に、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の作成を依頼することができる。また会計帳簿への記帳業務を税理士事務所に依頼している企業もある。
つまり税理士は、企業の経理・会計業務を受注することができる。
5:訴訟の補佐人
経営者や企業は、国から税務関係の訴訟を起こされたとき、内容が不服であれば争うことができる。そのとき弁護士だけでなく税理士も補佐人として「味方」につけることができる。補佐人は裁判所に出頭し陳述することもできる。
弁護士が税務に詳しいとは限らないので、税理士がそばにいたほうが経営者は心強いだろう。
6:会計参与として企業の役員になる
会社法に、会計参与という仕組みがある。会計参与は、企業の会計関係の書類や税務関係の書類に対し「お墨付き」を与える。会計参与は企業の役員に就任することが多い。
税理士はその会計参与に就任することができる。
AIに任せられる税理士業務はこれだ
税理士の仕事のうち、AIに任せることができそうな業務は次のとおり。
1:税金の相談ができるパートナー
2:税務代理
3:e-Taxの代理
4:会計業務
5:訴訟の補佐人
6:会計参与として企業の役員になる
ひとつずつ、なぜAI化が可能なのか考察してみる。
<1:税金の相談ができるパートナー>は、AIが最も得意とする仕事だろう。
AIは世の中の仕組みや制度や法律を暗記するのができる。例えば消費税率や税制が変わっても、すぐに覚える
またAIに、例えば10年分の税務上の課題を覚えこませれば、「納税者が何に悩むことが多いのか」を把握できるようになる。
こうした知見を覚え込ませたAIで「税務チャット」システムをつくれば、経営者がチャット形式で質問したことに、税務AIが的確に応えられるようになる。
<2:税務代理>と<3:e-Taxの代理>もAIが得意とする仕事だ。しかも政府はキャッシュレス化社会を目指しているので、これまで以上にマイナンバー制度が拡張・浸透すれば、企業などの事業者の「お金の流れ」が完全にデータ化されるようになり、さらにAIの活躍の場が広がる。
<4:会計業務>については、個人事業主ではすでにAI化が常識化しつつある。会計アプリを使えば、レシートをスマホのカメラで撮影するだけで記帳されたり、銀行口座の入出金を管理したりすることができる。
また会計アプリは損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書もほぼ自動的に作成する。
AIに任せられない税理士業務はこれだ
<5:訴訟の補佐人>と<6:会計参与として企業の役員になる>の2つの業務は、AIには難しいだろう。
また<2:税務代理>のうち、税務調査の立ち会いもAIでは困難だろう。税務署の職員は「機微に触れる」ことを攻めてくるので、それに対抗するにはベテラン税理士の対応力が求められる。
ただ<5:訴訟の補佐人>も<6:会計参与として企業の役員になる>も<2:税務代理のうち税務調査>も、頻繁に発生する仕事ではない。
つまり「ドル箱業務」のほとんどは、AIに任せられる業務のほうに含まれているのだ。
ではやはり、AIが進化した社会では税理士は生き残れないのだろうか。それとも、例え生き残れたとしてもこれまでのような存在感ある立場は保てないのだろうか。
<関連記事>
AIには絶対できない仕事とは?
「AIに仕事を奪われる」と考えることは無意味では?
実はどの業界、どの事業分野でも「AIに仕事を奪われる」という議論がなされている。しかしこの議論は不毛だ。
なぜならこれまでも、時代の進化は人々の仕事を奪ってきた。しかしそれでもなお、日本の経済界は人手不足にあえいでいる。
例えば自動化工場なら数人で稼働させることができるが、その自動化工場が生み出す製品は誰かが売らなければならない。ITの進化はさまざまな仕事を省力化したが、優秀な事務員たちはむしろITスキルを上げることで複数の仕事をこなし、企業にとってなくてはならない存在になっている。
AIも装置でありツールである。ただAIは賢いので、AIが人を使うようになることは間違いない。しかしそれでもなお、AIスキルを磨けば、AIを使って大きな仕事をすることができる。
これは税理士でも変わらない。
例えばAIを使って企業に<1:税金の相談ができるパートナー>サービスと<2:税務代理>サービスと<3:e-Taxの代理>サービスを提供する税理士事務所になれば、かなり繁盛するだろう。
またAIを使えば企業の経営判断が簡単かつ正確に行うことができる。
税理士は企業などの事業者から「お金の流れ」に関するすべての情報を入手できるので、AI経営判断ビジネスを展開しやすい立場にある。
まとめ~オートフォーカスのときもデジカメのときもスマホカメラのときもカメラマンは生き残った
かつて写真には「カメラマンにしか撮れない写真」というものがあった。ところが素人でもシャッターチャンスを逃さないオートフォーカス機能が開発され、「カメラマンにしか撮れない写真」は激減した。
その次にデジカメが出現し、写真データの受け渡しが格段に簡単になった。これにより「素人写真」が世の中に爆発的に広まった。
そしてこれらすべての機能をより高度化させたスマホカメラが誕生した。インスタグラムにアップされる写真には、とても素人が撮影したものとは思えない出来映えのものが多く存在する。
それでもなお、プロのカメラマンは生き残っている。それは、スマホカメラがこれだけ普及してもなお、プロにしか撮れない写真があり、そしてプロのカメラマンはそういった写真を追求し続けているからだ。
税務を「高度な事務作業」として考えてしまうと、高度な事務作業が得意なAIに取って代わられるのは目にみえている。
しかし税務を通じて経営者に助言したりコンサルティングをしたりする税理士は、AIの波に飲み込まれることはない。むしろその波でサーフィンをするくらいの気概が、AI時代の税理士に求められるだろう。
<関連記事>
AIで「なくなる仕事」を知れば「価値ある仕事」がみえてくる
<参考>
- エストニアの電子政府実現で税理士や会計士の職は消滅した(NEWSポスト、セブン)
https://www.news-postseven.com/archives/20160823_440295.html?PAGE=1#container - 税理士とは(日本税理士会連合会)
http://www.nichizeiren.or.jp/cpta/about/ - e-Tax(国税庁)
http://www.e-tax.nta.go.jp/ - 税務訴訟の特徴(ベリーベスト法律事務所)
https://www.vbest.jp/corporation/tax_litigation/about/abo003
役にたったらいいね!
してください
NISSENデジタルハブは、法人向けにA.Iの活用事例やデータ分析活用事例などの情報を提供しております。