日本は紛れもなく先進国の一員だが、「課題先進国」でもある。日本の少子高齢化のレベルは世界に類をみないほど深刻化し、近い将来同じ悩みに直面するであろう他の先進諸国は日本の課題解決を注視している。もし日本が少子高齢化の諸課題を克服できたら、それは世界の見本になるし、ビッグビジネスにもなる。
少子高齢化の課題の1つが公共交通網である。人口減少によって乗客も減り、地方の鉄道やバス事業は採算が合わなくなっている。高齢ドライバーの交通事故が社会問題になり、高齢者は免許の返上を迫られているが、自家用車がなくなったら買い物難民になってしまう。
そこでいま注目されているのがAI(人工知能)やITやネットをフル活用したロボットタクシーである。自動運転技術を使えば、運転手不足も解消できる。未来の公共交通網はどうなるのだろうか、最先端の取り組みをみてみよう。
AIロボットタクシーが実現する社会とは
国内の複数のIT企業がAI自動運転ロボットタクシーの事業化に取り組んでいるが、思い描く姿はおよそ次のような社会だ。
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スマホのアプリを起動して「タクシーを呼ぶ」と書かれたボタンをタップすると、約20分後にアプリからアラームが鳴り、家の外に出ると無人の自動車が停まっている。ドアにスマホをかざすことで本人確認ができ、ドアが開き、後部座席に乗り込む。
車内のモニターに行き先を入力すると、ほとんど音と立てずにスーッと走り始める。ほとんどの信号を青で通過できるのは、赤信号で停止しないようにスピードを調整しているからだ。
目的地に到着すると、スマホ画面に「お支払い方法は?」と出ている。「ポイントを使う」と書かれたボタンをタップすると、これまで買い物などで貯めていたポイントが差し引かれ、タクシーのドアのロックが解除され、外に出ることができる。
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夢のような話に聞こえるが、このAI自動運転ロボットタクシーの未来の姿を1つずつ検証してみると、現在すでに存在している技術でこのサービスを提供することは可能であることがわかる。
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技術的な課題は「もうない」?
まずスマホのアプリで無人タクシーのモーターを動かしたり走行させたりすることは難しくはない。無人タクシーが客の自宅まで向かうことも、例えばアメリカのグーグルなどがつくっている自動運転車をナビと連動させれば可能だ。
無人タクシーのドアがスマホから個人情報を抜き取り、本人確認をして客を車内に迎え入れることも難しくないし、目的地まで自動運転走行することは、無人タクシーが自宅に到着するのと同じ。
赤信号で止まらないようにスピードを調整することは、信号機をネットにつないで、つまり信号機をIoT化してクラウドで管理できれば、その情報を無人タクシーが共有することで実現できる。タクシー料金をスマホで支払うことも簡単にクリアできそうだ。
自動運転車は交通死を減らす?
AI自動運転ロボットタクシーの課題を挙げるとすれば、交通事故を防ぐ能力がまだ低いことだろう。アメリカではすでに自動運転車による死亡事故が複数件発生している。
だが自動運転車による事故は、人の運転による自動車社会と自動運転車が混在していることも原因の1つになっているだろう。
自動運転が当たり前の交通社会になれば、すべの交通機能をAIが制御できるようになるので「走行の最適解」が得られやすくなる。そうなれば交通事故は減るのではないか。
例えば国内の交通死は2017年、3,694人だった。かなり大きな数字だが、しかしピーク時の1970年の16,765人と比較すると4.5分の1にまで減っている。これは交通マナーの向上に加えて、自動車の性能向上によるところも大きいとされている。自動運転車は究極の自動車性能なので、交通死のさらなる減少が期待できるというわけだ。
DeNA、ソニー、ソフトバンクが食指を動かす
次にDeNA、ソニー、ソフトバンクによるAI自動運転ロボットタクシーの取り組みを紹介する。いずれも自動車メーカーでないところがユニークであるが、企業戦略としては合理性がある。
DeNAはゲームやプロ野球横浜ベイスターズなどコンテンツが強い会社であるが、AIと親和性が高いIT企業でもある。AI自動運転ロボットタクシーを、「AI、自動、ロボット」と「運転、タクシー」に分けると、前半部分はDeNAが優位に立てる可能性がある。
ソニーは家電メーカーの代名詞だったが、現在はゲームや映画などのエンターテイメント企業であるし、やはりIT企業である。しかもソニーはロボット犬アイボを復活させ、ロボット事業にも取り組んでいる。
ソフトバンクは携帯会社であると同時に、イギリスの半導体設計大手アーム社の親会社でもある。そしてやはりペッパーというロボットをつくっている。
このように眺めてみると3社とAI自動運転ロボットタクシー事業が無縁でないことがわかる。それでは3社の取り組みをみてみよう。
DeNAの取り組みとは
DeNAは「インターネット×AIで交通システムにイノベーションを」というキャッチフレーズの下、ロボットシャトル事業などに取り組んでいる。
シャトルとはシャトルバスのことで、すでに定員10名の超小型電動バスを公道で自動運転走行させる実証実験に入っている。
栃木市で2017年9月、道の駅と市役所支所、近隣集落の3カ所にバス停を置き、小型自動運転バスを走らせた。片道2kmではあるが、公道を走った。
小型自動運転バスは8日間で延べ35kmを走り、148人を乗せた。時速は10kmだが、運転席すらない完全自動走行だった。もちろん無事故である。
ソニー系の株式会社ZMPとは
ソニーは自らAI自動運転ロボットタクシーを行っているわけではないが、株式会社ZMP(東京都文京区、資本金約13億円)という会社に役員を送りこんだり、ソニーのドローン関連子会社と提携させる形で「投資」している。
ZMPにはソニーだけでなく、半導体世界大手のインテルや建設機械の小松製作所、電通のロボット技術支援子会社、名古屋大学などもサポートしている。
ZMPはAI自動運転ロボットタクシーの製作だけでなく、自動搬送装置や自動運転車用のソフトウェア・カメラ・画像処理技術なども開発している。
そしてZMPの大きな目標は、2020年までに無人の自動走行タクシーを走らせることだ。運転席にドライバーを乗車させてはいるが、自動運転車を愛知県と東京都の公道で走らせている。
ソフトバンクが想定するAI公共交通網とは
ソフトバンクはSBドライブ株式会社(東京都港区)という子会社設立してAI公共交通網の構築を目指している。
SBドライブが実証実験の場に選んだのは、羽田空港周辺の公道である。市販のディーゼルエンジンの小型バスに自動運転システムを搭載した。この方式のほうがEVバスを一からつくるよりコスト安になる。
自動運転車には高度な位置情報を把握する必要があるが、ソフトバンクの携帯電話網を使うことでその課題をクリアした。
自動運転バスは1周約4kmのコースを走行。運転手は乗車したが、4㎞のうち1.4㎞はすべての運転を自動化させて走行させた。
ソフトバンクが目指す未来の公共交通の姿は次の通り。
・高齢でも障害を持っていても、いつでも行きたい場所に、安価に安全に行くことができる
・交通事故を減らす
・運送業界の人材不足という課題を解決する
まとめ~東京オリンピックに間に合う?
各社とも2020年の東京オリンピック・パラリンピックを1つのゴールと見据えている。前回の東京五輪では、新幹線や高速道路が新時代の象徴だったが、今度のオリ・パラでAI自動運転ロボットタクシーを世界の人に見てもらうことができれば、夢の超特急(新幹線の代名詞)に匹敵する偉業となるだろう。
<参考>
- 栃木市にて、道の駅を拠点とした自動運転実験の第一弾、高齢者の足を確保 (RobotShuttle)
https://robot-shuttle.com/cases/nishikata.html
- DeNA AUTOMOTIVE (DeNA)
https://dena-automotive.com/#project - 「道の駅」周辺で無人運転バス 国交省が全国初 (ITMedia)
http://image.itmedia.co.jp/l/im/news/articles/1708/14/l_kf_mlit_01.jpg
- Robot of Everything (ZMP)
https://www.zmp.co.jp/services/autotaxi
- SBDrive
https://www.softbank.jp/drive/#vision
- SBドライブの自動運転バスは、無人運転可能なレベル4自動運転へどのように進化したのか?(Car Watch)
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1109592.html - ANAとソフトバンク、羽田でレベル4自動運転の実証実験 (日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27386950W8A220C1000000/
- 2017年の交通死、過去最少=3694人、警察庁まとめ (JIJI.com)
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_tyosa-jikokoutsu
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